PART 36b

 今回の番組終了後の反響は、今までの羞恥ハプニングの放送を遥かに上回るものだった。

 何しろ、実は麻衣子が全裸で放送しているという噂が流れてその画像が週刊誌に取り上げられ、その次の回の放送で、番組と平行して、あろうことか全裸放送姿がネットで生中継されたのだ。
 その全裸の映像は恐ろしく自然で、本当に何も着ないで放送しているようだと大評判になった。また、その全裸映像の乳房や尻が、週刊実○に掲載された画像と全く同じだったことから、作者は同一人物なのだろうということになっていた。
 
 また、全裸で澄まし顔でニュースを読んだり、恥ずかしそうに顔を歪める麻衣子の映像は、静止画像よりも遥かに刺激だった。番組が進むにつれ、唇を半開きにして喘ぎ、言葉に詰まり……実は、全裸放送の方が本当なのでは、という疑惑の声も再び強まった。AVに詳しい男たちが必死に探しても、映像の乳房とお尻のモデルが見つからないことも、その裸は麻衣子自身のものではないかという疑念を強めていた。

 さらに、麻衣子の足元にできた「水たまり」も淫らな想像を掻き立てていた。あの喘ぎ方、明らかに感じていた……ということは、それは麻衣子の愛液ではないのか……床に水たまりができる前の映像をよく見ると、麻衣子の太ももを液体が伝って落ちているようにも見えた。

 AV関係者と名乗る者がネット上の論戦に参加し、これはどう見ても全裸の女が感じて悶え、愛液を漏らした映像に違いないと断定した。一方、動画の作者と名乗る者は、今までのAVを参考に作成した演出に過ぎず、もちろん麻衣子は着衣で放送していたと説明した。さらに、これが合成であることが分かる機能を追加開発中であり、次回放送には間に合うだろう、と述べていた。

 さらに、ネットのアダルト系の掲示板では、麻衣子の「感じ方」が特に大きな話題になっていた。それは、いわゆる寸止め責めにそっくりとの指摘があり、皆で麻衣子の表情や声、身体の震わせ方を検証した結果、やはり乳首や尻、クリトリスや膣を中心に責められ、しかし絶頂に達するほどまでは追い詰められなかったのではないか、だから麻衣子は、恥ずかしさと気持ちよさに悶え、愛液をだらだらと流してしまったのではないか……それが、掲示板での大体の意見だった。もちろん、ニュース番組の放送中にそんなことがあるはずない、第一、麻衣子を責めるものが映っていない、という反論も強力で、確定まではいたらなかった……

 麻衣子が全裸放送をしているか否か、という議論はネットだけではなく、男性が集まる場では必ずと言っていいほど話題になり、3日後には麻衣子のネット全裸放送を日本全国で知らない者はいなくなった。当然、ネット中継の動画が出回り、数百万回も視聴され、ダウンロードされることになった。当然、N放送はアップされる度に削除要請を出したが、アップロード先はどんどんアングラなサイトになっていき、全てを削除することはできなかった。

 こうして、麻衣子の全裸放送の映像は瞬く間に日本中に広まり、その美しい乳房とピンク色の乳首、ぷりんとしたお尻、むっちりした太もも、そこを伝っている汗または愛液、を知らない成人男性はほとんどいない状況になってしまった。皆が残念に思ったのは、麻衣子が両手で股間をかたくなに庇っていたため、秘部だけが見えなかったことだった。

 こうなると、苦境に陥ったのはN放送だった。放送映像では、麻衣子はきっちりとした着衣であり、N放送研究所が総力を上げて作成した「仮想着衣システム」は完璧に機能していた。しかし、麻衣子が感じてしまい、愛液を漏らしてしまう展開になることは想定外だったため、不自然な部分が残る放送となってしまったのだ。着衣とは言え、顔を真っ赤に染めて、喘ぎ声ともとれる声を漏らし、足元に水たまり……局には取材が殺到したが、広報部ではちょっとしたハプニング、という苦しいスタンスを貫くしかなかった。

 麻衣子にとってさらに辛かったのは、翌日の日曜日だった。「週末小旅行」コーナーの撮影のため、取材をしなければならなかったのだ。今回の取材地は浅草だった。大勢の人だかりができ、カメラのレンズが向けられてシャッター音が響き、野次やからかい、応援の言葉などが乱れ飛び、騒然とした雰囲気の中、麻衣子は笑顔を浮かべ、取材をしなければならなかった……

 翌週に発売された男性向けの週刊誌は、ほとんど全てがこの話題に飛びつき、無数の特集が組まれた。今までの麻衣子の羞恥放送の情報を再録し、関係者と称する者のコメント、AV関係者の評価、ネットでの論争……しかしその記事のいずれもが、全裸放送の動画が現実なのか高度なコラージュなのかは断定しかねていた。ほとんどの記事が、次の放送が待たれる、ちなみに中継映像のネット映像へのアクセス方法は……と、いう形で締めくくられた。その結果、次回の放送では、全国の数十万、数百万の男性が、放送映像とネット中継映像を同時に見る環境が整うことになった。

 木曜日の事前ミーティングは、いつもより若干、荒れた展開になった。もう放送を降りたいと麻衣子が有川に訴えたのだ。
 前々回までは、仮想着衣システムを信じて、何とか全裸で放送していた。しかし前回は、生の全裸放送映像が、放送と同時にネットで配信されてしまったのだ。それは23歳の女性にとって、余りにも恥ずかしく、耐え難いことだった。乳房とお尻がはっきり映り、感じて流してしまった愛液まで晒されて……その映像は自分の知人の全ての男性も見ているだろう……ネットに流出してしまった映像は永遠に消えることはない……麻衣子はここ数日間、何度も悪夢にうなされた。

 しかし有川は、麻衣子の訴えを全く聞き入れようとしなかった。その主な理由は次のようなものだった。
・麻衣子が急に降板したら、過去の放送が実は全裸で放送していたことを認めたことになる。ネットに流出した動画は麻衣子の全裸だと思われることになる。
・N放送研究所には、仮想着衣システムのさらなる改善を指示している。今までは麻衣子の放送映像の全てを読み込ませて分析させていたが、さらに、ここ数年の女子アナの映像も全て読み込ませる。その映像には、民法のアナウンサーがバラエティ番組に出演した時のものも含んでいる。
・残念ながら、予想外の事態が起こり、「声」の主の特定にはまだしばらく時間がかかる。しかし、N放送幹部が交渉を行った結果、次回の放送だけ彼の指示に従えば、それ以上の辱めはしないとの約束を得た。相手の特定に時間がかかる以上、その約束に乗るしかない。
・最悪、「声」の主が特定できず、交渉も成立しなかった場合、麻衣子がアナウンサーでいる限り、いつどこで超能力による辱めを受けるか分からない。
・また、「声」の主は、もし麻衣子が出演をやめた場合、今までの映像は仮想着衣システムではなかったと宣言する、と言っている。その際、証拠として、今までの未放送映像も流出させる、とのこと。

「……あの、今までの未放送映像って、なんでしょうか?」
有川の説明の最後の部分について、麻衣子が質問した。そして、麻衣子が全裸放送する前の事前ミーティングで、本番で自然にしているための練習として、番組スタッフの前でストリップをして、全裸でにっこり自己紹介をする練習や、皆に裸を見せて回った時の動画も、「声」の主が所有していることを知らされると、顔面蒼白になってカタカタと震えた。
「ひ、ひどい、そんなの……私、聞いていません……」
麻衣子は半分涙目になって抗議したが、それが「声」の主のその時の条件であり、麻衣子には知らせないように指示されていた、と説明されては、どうすることもできなかった。


 ……結局、麻衣子は次回も全裸で放送することを承諾するしかなかった。仮想着衣システムがしっかりと機能したら、あとはネット中継の全裸放送がコラージュであると言い張るしかない。大丈夫、放送映像は完璧な着衣姿なんだから。私は悪質なコラージュの被害者に過ぎないのよ……長い説得を受け、麻衣子は自分にそう言い聞かせるしかなかった。


「……分かってくれたか……悪いな、麻衣子ちゃん。でもこれも、君と局のためなんだ、あと1回、こらえてくれ……」
強張った表情で小さく頷く麻衣子を見ながら、有川は言葉を続けた。
「それで、その……次回の放送のために、あと二つだけ、しなくちゃいけないことがあるんだが……」

「あの、なんでしょうか?……」
有川が言いづらそうにしているのを見て、麻衣子は不思議に思った。全裸放送以上のことなんてあるはずがない……しかし麻衣子は、有川のその後の指示を聞いて驚愕し、恥辱に震えることになった。

 有川の指示の一つ目は、N放送研究所からの要望だった。仮想着衣システムが完璧に動作するために、麻衣子の全裸データを既に得ているが、一つだけ問題があるというのだ。それは、麻衣子の恥毛だった。麻衣子の恥毛は薄く、淡く秘部を覆うだけだったが、それがランダムに動くと、加工が非常に難しいとのことだった。まず大丈夫ではあるが、幹部から絶対にミスをしないように厳命されているので、万全を期したい……それはすなわち、麻衣子の恥毛を全て剃って欲しいという要望だった。

 二つ目の指示は、前回の放送のように、番組中に快感に悶えて不用意な動きをしたり、喘ぎ声を漏らすことはしないように、というものだった。前回の放送時はなぜあんなに快感に悶えていたかを問い詰められ、麻衣子は「指」で乳首や尻の穴、膣口まで弄られていたことを告白しなければならなかった。23際の女性としては、尻穴や膣口に指を突っ込まれたことは伏せておきたかったが、目の前で前回の全裸放送映像をスローモーションやコマ送りで再生されて、この時はどこを触られたのかなどと徹底的に尋問されては、全てを告白するしかなかった。スタッフの男たちは気の毒に思いながらも、清楚な服装の麻衣子が顔を真っ赤にして恥辱の告白をする姿を、興奮して眺めずにはいられなかった。

 有川の二つの指示をこなすために、麻衣子はさらに恥ずかしく、屈辱的なショーを番組スタッフ達の前で演じなければならなくなった。せめて、皆のいないところで、と麻衣子は再び懇願したが、有川はあっさりと却下した。羞恥に慣れることも、放送時に平常心を保つために必要だ、という理屈だった。さすがに同情した女性陣が有川に反発し、その場を退席した。しかしそれは、会議室という密室に、女性は麻衣子一人だけとなり、顔見知りのスタッフの大勢の男性の前で痴態を晒すショーの舞台づくりに貢献することになってしまった。

 有川の指示で会議室のテーブルの配置が変更され、長方形に並べられていた長テーブルのうちの2つが長方形の中心に移動された。その結果、コの字型に並べられたテーブルの中央に、長テーブル2つで作られたステージができる形になった。もちろん、中央のステージは麻衣子によるショーの舞台だった。

 ステージの上に立たされた麻衣子を取り囲むように、男性スタッフ達がコの字型のテーブルの席に座った。いつの間にか、ビデオカメラが2台用意され、反対方向から麻衣子の姿を狙っていた。

「よし、それじゃあ始めようか、麻衣子ちゃん」
椅子にどっかりと座った有川がいつもの放送と同じ調子で指示した。

「は、はい……」
男性スタッフ20人以上が見守る中、テーブルでできたステージに立っている麻衣子は、少し声を上擦らせた。また、皆の前で裸にならなければいけないなんて……それに、今日はもっと恥ずかしいことまで……

「ほら、さっさと脱いで、麻衣子ちゃん!」
もじもじする美女を、有川が容赦なく叱咤した。
「まずは笑顔でストリップ! もう何回もやってるから簡単だろ? ……それから、自分で実況しながら剃毛ショー、しっかり録画してもらうんだぞ!」


前章へ 目次へ 次章へ


アクセスカウンター