PART 1

 9月中旬のある日。
ブルセラショップの中で、二人の男と二人の女子高生が相談していた。

 「ねえ、ちょっと今日は相談があるんだけど・・・この子だったら、かなり稼げるかなあ?」
一人の女子高生がそう言いながら、一枚の写真を見せた。

 店員達がその写真を覗きこむ。
「お、ショートカットの美少女! ちょっとこのコ、すっごく可愛いじゃん。・・・この子が、本当にブルセラしたいって言ってるのか?」
「いかにも清純で真面目ですって顔しちゃって、たまんねえなあ・・・いくらでも出すから、ぜひうちに紹介してよっ、ゆきなちゃん!」

 「やだなあ、何興奮してるのよ。こんな真面目そうな子がそんなことするわけないでしょ。」
「そうよ、それにこの子、うちの学校の生徒会長なのよ。成績もほとんどトップクラスだし。」
二人の女子高生は素っ気無くいった。男達が写真の少女に目を奪われているのが面白くなかった。

 「は、生徒会長?! なーんだ、からかったのかよ。でも、言われて見ると、ちょっと気の強そうな感じだな・・・こういう女を堕とすのって、面白いんだけどなあ・・・」」
「へー、K大附属の生徒会長で頭もいいんだ、このコ・・・絶対処女だろうな、いやらしいことなんて何も知りませんて顔しちゃって・・・快感漬けにしてやりてえなあ・・・もったいないな・・・」
男達は露骨に落胆した。

「もう、何よお。だから相談しにきたって言ってるじゃない。何か、ムカついてきた。」
「もう帰ろっか、ゆきなちゃん」
まあまあ、ゆきなちゃんもみどりちゃんもすっごく可愛いよ、と男達になだめられ、二人はようやく本題に入った。

・・・10分後。相談に対する男達の提案を聞いた少女達は眼を輝かせた。
「うわ、それ、面白い! あの梨沙ちゃんがどんな顔するか、見てみたい(笑)」
「どうせなら、全校生徒の前で思いっきり恥をかかせちゃおうよ。あのコの、いかにも品行方正な生徒会長ですってお澄まし顔がムカつくのよねえ。」

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谷村梨沙は、私立K大附属高校の2年1組の生徒だ。アイドルにそっくりと言われる愛くるしい美貌にショートカットがよく似合い、理知的な瞳が印象的な美少女だった。
また、梨沙の魅力はその顔だけではなく、80、58、83のスタイルとも相まって、男子から圧倒的な人気を得ていた。しかし、梨沙本人は外見で判断されることを嫌っていて、1年生の学園祭の時にはミスコンに出るように周囲から進められたが、頑なに固辞していた。運動神経も抜群で、所属するバスケ部では1年生の時からレギュラーメンバーに入っていた。

さらに、頭脳明晰な梨沙は成績も優秀であり、校内模試では常に学年でトップ3に入っていて、附属のK大の人気学部への進学は勿論、その気になればT大だって合格確実と言われていた。

そして、梨沙の人気をさらに高めていたのは、それだけの美貌と頭脳を持ちながら、決して威張らず、誰とも仲良く接する明るい性格だった。しかしそれは、多くの男子に誤解をもたらし、交際を申し込まれては断るということが高校時代だけでも20人以上に達していた。梨沙はK大附属中からの進学組だが、中学時代も含めるとその人数は50人とも噂されていた。
欠点がほとんどない梨沙だったが、男子との距離の取り方だけは苦手で、普通に接していたつもりの男子が急に好意を露わにしたり、嫌らしい目で自分の胸や尻や太ももを見ているのを感じると、困惑してしまうのだった。

清楚で可憐な美貌と知性を兼ね備え、性格も良く物怖じをしない梨沙は、本人が望まなくても高校生活をクラス委員として過ごすことになった。そして、2年生の7月になると、半ば強制的に生徒会長に立候補させられ、圧倒的な票を得て当選したのだった。

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9月になり、二学期が始まってしばらくすると、梨沙と2年2組のクラス委員で副生徒会長の柏原宏は、学年主任で体育教師の富田に呼び出された。
富田の話の内容は、夏休みに発生した2件の不祥事に関することだった。

一つは、当校の女子生徒がブルセラショップに下着を売っているという、匿名の保護者からの密告だった。男性教師が客を装ってその店「ショウブ堂」に行くと、確かに当校の制服を着た目隠し入りの女子生徒の写真とパンティが展示されていたということだった。

そしてもう一つは、学校の裏サイトが開設されているということだった。梨沙と柏原の二人の前で富田がそのページを開くと、そこにはK大附属の制服の女子生徒のパンチラ写真や水着写真、嫌らしい話題の掲示板やアンケートが表示された。梨沙が恐る恐るその画像を見ると、幸い、自分をネタにした写真はなかった。しかし、『素っ裸に剥いてみたい女子は誰?』というアンケートで、『谷村梨沙』がダントツの一位になっているのを発見し、頬を真っ赤にさせて震えた。

「こ、こんなのひどいです! 女子をバカにしています! 絶対許せません。早く、閉鎖させてくださいっ!」
梨沙はそのページを見ながら強い口調で言った。

「うん、君の気持ちは良く分かるんだけど。調べてみたら、このサイトはあるアフリカの独裁国家のサーバーに作られててね、外交ルートすらないんだ。」
富田は神経質そうにメガネの位置を直した。
「普通の生徒がそこまでする筈が無いんだけど、よく見たら、ここにね・・・」
富田が指し示したところには、
『目隠しなしの写真やさらに過激な画像・動画が欲しいかたはこちら』
というリンクがあり、そのリンクをクリックすると、さっきの「ショウブ堂」のサイトが表示された。

なんてことを・・・と絶句する梨沙を横目に、柏原が口を開いた。
「そのサイトなら知っています。夏休みに男子の一人が発見して、あっという間に広まりましたから。多分、附属の全員の男子が知っていると思います。」

「そ、そんな・・・ひどい」
梨沙はまたも絶句した。実は、今日はいつにも増して男子達の視線が身体にまとわりつくのを感じていたのだ。
「それじゃあ、さっきのアンケート、投票したのは・・・」

「うん、うちの生徒だろうね、残念ながら。こんなに個人名や特徴を知ってるわけがない。」
富田は淡々と言いながら、さっきのアンケートの一位『谷村梨沙』をクリックした。すると、投票時のコメント一覧が表示された。
『あんなに可愛い顔して、胸でかそう。』
『頭はいいけど男に不慣れな生徒会長さんを皆の前で素っ裸に剥きたい。』
『素っ裸で四つん這いにさせて、ふっくらしたお尻を剥き出しにさせたい。』
『2年間で20人を振った高飛車女を全裸に剥いて校内中を引き回したい。』
『生徒集会でストリップしながら演説させたい』
『全校生徒の前でお尻の穴丸出しにして、皺の数を数えさせたい』
『一人だけ全裸でバスケさせたい』
『牝犬ポーズで放尿ショー!』
・・・

「も、もうやめてください・・・早く閉じてください・・・」
うぶな梨沙は、初めて男子達の露骨な欲望を見せつけられて、それ以上読むことができなかった。気のせいかもしれないが、2人の男が自分の反応を好奇の目で見ているようにも感じた。

「あ、いや、君は生徒会長だから、現実は把握しておかなければならないと思ってね、辛いかもしれないが敢えて見てもらったんだ。」
梨沙の咎めるような視線に、富田はいつもより早口になっていた。

「でもこれ、まだ開設されたばかりなんですよね。それなのに、このアンケート、もう100票以上投票されてるってことは、うちの生徒400人の4分の1、男子200人の半分以上が投票してるってことですよね。」
柏原が冷静に言った。そして、その過半数の60人以上が梨沙のヌードを見たがっている、というところまではさすがに口にしなかった。
「どうする、生徒会長? 先生方も対応してくれてるけど、直接生徒同士で話し合った方がいいんじゃないかな?」
校内模試で常に一位の柏原は、梨沙の動揺に敢えて気づかない振りをして言った。

「そ、そうよね・・・」
梨沙は少し躊躇ったが、柏原の言葉が正しいと思っていた。でも、みんなが私の裸を想像しているのに、その前に立つなんて・・・
「分かったわ、すぐに生徒役員会を開いて、週末には緊急の生徒総会を開きましょう。」
(そうよ、まず生徒のみんなが考えなくちゃ、絶対に解決しないのよ)
正義感の強い梨沙は、羞恥心を振り切って決心した。

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 そして、翌日には各クラスの正副クラス委員が参加する生徒役員会が開かれ、梨沙は問題の発生とその対処への決意を述べて、全員の賛同を得た。各クラス委員がすぐに自分のクラスで緊急生徒集会の開催を知らせ、その翌日の放課後には、校庭に全校生徒が集合することとなった。

 そして、その日の生徒集会は、いつもと雰囲気が違っていた。梨沙が壇上に上がると、「お、20人切りのお嬢様!」、「ダントツ一位になったお礼に緊急ストリップか?」などと一部の生徒からからかいの声が飛び、笑いのさざ波があちこちで広がった。壇上に上がった梨沙のスカートを下から携帯端末で狙う生徒すらいた。

 (絶対に負けないんだから)梨沙がその顔を上げて全校生徒を見渡すと、その瞳の力の強さに皆が静まった。
「えー、今日、急に皆さんに集まっていただいたのは、大事なことを話し合わなければならないと思ったからです。」
梨沙が凛とした声で話し出すと、皆の意識が集中してくるのが分かった。
「それは、夏休みから発生している、2件の『性の商品化』に関する問題です。私は生徒会長として、絶対にそれを見過ごすことはできません・・・」

 それからの10分間、自分が卑猥な興味の対象として見られていることを知りつつも、静かな口調で、意志の強い瞳で皆を見ながら演説を行う凛々しい美少女に、その場の皆が心を奪われていた。梨沙はその中で、女子は安易に自らの性を商品として売らないこと、男子は女子を人間として尊重し、お金を払って辱めるようなことをしないこと、を訴え、裏サイト潰しとブルセラ取引の撲滅に向けて、生徒と教師、男子と女子の団結を訴えかけた。徐々に引き込まれていった生徒達は、
最後には大きな拍手で応えた。

 「ちょっと、気取り過ぎちゃったかな? 『団結』なんて古臭かったかな? みんな、分かってくれたかな?」
生徒総会が終わり下校する途中、梨沙は同じクラスで中学からの親友の須藤芳佳に砕けた口調で話しかけた。

 すると芳佳は、大きく首を振った。
「ううん、全然気取り過ぎなんかじゃないよ。私の周りの人たちもみんな、梨沙ちゃんの話に頷いてたよ。それに、ばらばらにじゃなくって、団結することで大きな力が生まれるっていう話、説得力があったよ。大丈夫、きっといい方向に向かうから、一緒に頑張ろうね。」


 しかし皮肉なことに、可憐な美少女の気高い演説は、彼女自身の性の対象としての商品価値を大幅に高める結果に繋がってしまったのだった。


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