PART 42(bbbb)

 それはわずか十数秒の動画だったが、あまりにも衝撃的だった。梨沙が過激な紐ビキニを来て、乳房をぷるぷる震わせて走りながら、水着の上と下を順番に取り、素っ裸になったのだ。こんな動画を合成で作れるはずがない・・・もう、絶対に言い逃れができない状況に追い込まれて、どうするつもりなのか・・・

 クラスメイトの視線が、ほとんど露骨に梨沙の横顔に向けられた。何があったにせよ、普通に服を来ている一般人の集団の中を恥ずかしいビキニで走り、さらに自ら素っ裸になったのだ・・・男子達の梨沙に向ける視線に遠慮がなくなり、女子の視線には明らかな侮蔑が含まれるようになっていた。

(なーにが、私じゃない、よ。嘘つきねえ)
(黒木って人の言うとおり、梨沙ちゃん、本当に自分からAVメーカーのイベントに参加したんじゃない?)
(ちょっと、何がなんだか分からなくなってきたわ(笑) 要するに、梨沙ちゃんが露出狂の変態ってこと?)
(おいおい、生徒会長って、野外で全裸になるのが趣味だったってこと?)
(だから、柏原くんにお願いして、裸でバイクに乗って学校に来たんじゃない?)
(うっわあ、柏原、うらやましいけど可哀想!(笑) 露出狂に巻き込まれて退学になったりしてな)
(ほんと可哀想! 柏原くん、後ろの女の子のことは絶対に誰か言わないみたいよ。必死に庇ってるのに・・・)
(それなら、体育は素っ裸でやってもらおうぜ(笑))
(ていうかさ、そういうこなら遠慮なく緊急生徒総会、参加してやろうぜ)
(ああ、全校生徒の前でストリップして、特出しショーにオナニーショーだっけ?(笑))
(性の商品化には反対だから、ただで見せてくれるんだよね?(笑))
(ねえ、梨沙ちゃんの露出趣味のために、女子も出なきゃいけないの、緊急生徒総会?)
(もっと恥ずかしいコレクションもあるってことは、もろ出ししてる動画もあるのかな?)
(うーん、生徒総会で生ストリップより過激な動画があるんなら、どっちがいいかな?(笑))
ひそひそ声はだんだん大きくなり、すぐに梨沙にわざと聞かせるような大きさになった。

 四方から聞こえる意地悪なひそひそ声に、梨沙はもうどうしていいか分からなくなっていた。こんな動画まで撮られていたなんて・・・もう、この画像は自分じゃないなんて言えない・・・
 ぼうっとしかけていた頭の中に、ひそひそ話で聞こえた言葉が蘇った。・・・柏原くん、退学?・・・女の子を庇って・・・

 はっとした梨沙は、携帯端末を取り出し、こっそりメールを打ち始めた。
『全校生徒の皆様へ
 生徒会長の谷村梨沙です。
 本日放課後、緊急の生徒総会を体育館で開催しますので、可能な方はできるだけ出席してください。よろしくお願いします。』
メールの本文を書いた後、ほんの少しだけ、梨沙はためらった。
(でも、柏原くんに迷惑はかけられない・・・やるしかないわ・・・)
梨沙は小さく息を吸い込むと、送信ボタンをクリックした。

 その数秒後、クラスの皆の携帯端末が着信を告げた。男子も女子も、それが黒木からの次のメールだと思い、梨沙の更なる恥辱データが送られてきたと期待して、携帯端末を操作した。

 しかしそれが黒木からではなく、梨沙からのメールであり、しかも、黒木の命令に従って緊急生徒総会を開くという内容だと分かると、皆、しばらく沈黙した。ちらちらと梨沙を見たが、メールの内容を否定する様子はなかった。

 教室には、淡々と説明する教師の声と、板書をするチョークの音が響いていたが、まじめに授業を受けている者は全くいなかった。
(え、ほんと!?)
(マジかよ・・・)
(ほんとにストリップ、してくれるの?)
(生徒会長のオナニーショーか・・・今日は部活、さぼってもいいかな(笑))
(いや、生徒会長様がおっしゃるんだから、全部活は中止だろ(笑))
(まさか、梨沙ちゃんが脅迫に屈するなんて・・・よっぼど、恥ずかしい動画、撮られてるんだな(笑))
(しっかし、あんな可愛い顔して、素っ裸で外を走って、今度は全校生徒に集合かけてストリップ&オナニーショーするんだろ? ド変態だな、こりゃ!(笑))
(あーあ、俺、梨沙ちゃんに惚れてたのに、ショックだなー)
(ねえ、普通、脅されたからって、そんなことするかなあ?)
(だから、本当は好きでやってるんでしょ・・・いっくら生徒の自主性に任されてるからって、自分の露出趣味のために全校生徒総会してもいいのかな?(笑))
(生徒会長不信任案、みんなで出そうか。)
(そうだよね、こんな変態が生徒の代表だなんて思われたら、すっごい迷惑!)
・・・教室の中の雰囲気はさらに冷たくなり、梨沙にとって、まさに針の筵の状況になってしまった。

 梨沙は気力を振り絞り、生徒会役員全員宛のメールを書いた。
『お願い、今は何も聞かないで、生徒総会開催に協力して。私は大丈夫だから。』


 四時間目が終わって昼休みになると、さすがに辛くなった梨沙は、すぐに教室から飛び出した。しかし、走りながら水着を脱いで全裸になった動画を全校生徒に閲覧されてしまった今、唯一の逃げ場はトイレの中しかなかった。
 しかしそれは、梨沙に別種の恥辱責めを与えることになった。口さがない女子達は、女子トイレの中で、教室の中では言えなかった、梨沙への軽蔑、嘲りの言葉をさんざん言い合い、笑い合っていたのだ。
「そう言えば、控えめなフリして、絶対に自分のこと、一番可愛いと思ってたよねえ」
「そうそう、それでさ、男子にはさりげなく媚びを売ったりして、感じ悪いよね」
「そのくせ、告白してきた男子はあっさりふっちゃって・・・特定の彼を作らないのも、みんなにちやほやしてほしいからじゃない?」
「制服のスカートの長さも、計算してるのかもね・・・短すぎじゃないけど、膝は見せて、男の子を刺激しちゃって」
「そうかも。胸だって、もっときついブラすればいいのに、わざと揺れるようにして見せつけてない?」
「ショートカットなのも、私の顔は可愛いから髪型に頼らなくてもいいってアピールよね。」
「もっと注目してほしくて生徒会長になって、みんなに見られて演説するの、嬉しそうだったもんねえ。」
「だけど、裸も大勢に見られるのが好きな変態だったなんて、最低っ(笑)」
「ひょっとして、アイリスの黒木って人、実は梨沙ちゃんの仲間じゃないの?」
「あはは、あり得る! 実は放課後の総会も、梨沙ちゃん主演のAVとして発売されたりして!(笑)」
「やだ、それじゃあ私たち、エキストラ扱い!?」
「でもさあ、まあ、見てあげようよ。生徒会長さんがどれだけ露出狂の変態なのか!(笑)」
「そうだね、なんか楽しみ!」

 ・・・女子達が入れ替わり立ち替わり入ってきて、梨沙への鬱屈した羨望と嫉妬で悪口を言い続けるため、梨沙は個室から出るに出られなくなってしまった。始業のベルが鳴るとトイレはようやく静かになり、梨沙は少し5時間目に遅刻してしまった。

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 5時間目が始まってすぐ、皆の携帯端末にメールが着信した。
『K大附属高校の皆様
 アイリスの黒木です。谷村梨沙が、ついに緊急生徒会を開くことにしたそうですが、皆様、ぜひ参加してあげてください。
 予告どおり、制服姿からの全裸ストリップショー、特出しショー、オナニーショーをさせて、皆様にも十分楽しんでいただけると思っていいます。特出しではピンクの襞の一つ一つが見えて、尻の穴の皺の数はみんなで数えてもらいたいと考えています。オナニーショーでは、ただ絶頂に達するだけではなく、産卵ショーや潮吹きショーができるように、調教するところもご覧いただきますので、乞うご期待。
 なお、写真部の者は十分な機材を用意しておくこと。』

 今度は添付の画像や動画はなかったが、その文章だけで十分に衝撃的だった。優等生で美少女の生徒会長に、全校生徒の前で恥辱ショーを演じさせるだけでなく、変態的な芸までできるように調教する姿を公開する・・・ほとんどの者が、放課後のスケジュールをキャンセルして、授業が終わるのを待ちこがれていた。

 皆に好奇の視線を浴びながら、梨沙はそのメールの文章を読み、恥ずかしさと怒りに小さく震えていた。ば、バカにしないで・・・ひどい・・・皆もひどい、そんな目で見ないで・・・
 『大丈夫?』などというタイトルで心配しているフリのメールが沢山届いたため、梨沙は思わず携帯端末の電源を切ってしまった。何が、大丈夫、よ・・・トイレでみんなが何を話していたか、全部聞いていたんだから・・・

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 放課後。生徒会役員達が急遽準備に骨を折ってくれたおかげで、無事に緊急生徒総会が開催されることになった。噂を聞きつけ、開催を認めるべきではないという教師もいたが、紀子達生徒会役員が、梨沙の思うとおりにやらせてほしいと訴え、それに富田先生や西田先生、二宮先生が後押ししてくれたため、何とか校長の了解を取り付けたのだった。

 様々な言葉を掛けてくる生徒達がいたが、梨沙は極力淡々と対応した。やるしかない、やるしかないんだから・・・皆が携帯端末の画面を眺め、制服姿の梨沙と見比べてにやにや笑い、ひそひそ話をするのを見ながら、梨沙はひたすら自分に言い聞かせていた。

 緊急生徒総会開始の3分前になると、体育館にはほぼ全員の高校生が揃った。体育館の奥にはステージがあり、その中央に演台があった。また、体育館は、横に並べて2面のバスケットコートの線が描かれ、壁際には合計4つのゴールがあった。2面分のバスケットコートに当たる部分には、3×3の9つのブロックに分けて折り畳み椅子が並べられ、生徒達は、ステージから見て、左から1年生、2年生、3年生、前から1組、2組、3組となっているブロックに座っていた。お金払うから前の方の席に変わりたいという生徒もいたが、もちろん受け入れられることはなかった。

 ステージの上には、梨沙一人が立っていた。通常は、生徒会役員達が演台の後ろに座っているのだが、みんなにも顔を見て話したいからと、今回は生徒達と一緒に座るように梨沙が依頼していた。
 そして、開始の時間になると、梨沙はすっと立ち上がった。それじゃあ、始めるわよ・・・

 梨沙は小さく息を吸うと顔を上げ、生徒達の方を見た。覚悟を決めた梨沙の表情は引き締まっていて、いつものような凛々しさを漂わせていた。梨沙の雰囲気が変わったことに気づいた生徒達は、私語をやめてじっと彼女の動きを見守った。

 梨沙はすたすたと歩き、演台の前に立った。ちょうどいい高さにマイクがあるのを確認すると、顔をあげて、生徒たち全員をもう一度見回した。

 「・・・皆さん、今日は緊急生徒総会に出席していただき、ありがとうございます。今日は、どうしてもみんなに伝えたいことがあって、開催することにしました・・・」
梨沙の表情は、いつもの演説の時と同じ、毅然とした雰囲気だった。またその声も震えることなく、しっかりと体育館に響いていた。いつもの、鈴の音のような透き通った声だった。

 え、どういうこと?・・・生徒達は意外な展開に戸惑っていた。どうして生徒会長は、こんなに落ち着いて、いつもの生徒総会と変わらない話し方をしているんだ?・・・ストリップをして素っ裸になって、恐ろしく卑猥なショーを見せてくれるんじゃなかったのか・・・会場が少しざわついた。



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