PART 2

 若杉彩はW大学法学部の2年生だ。W大と言えば全国屈指の名門私大であり、中でも法学部は文系学部の中で最難関だった。

 彩はその中にあって、少し有名人になっていた。童顔気味の可愛い顔立ちで、性格は明るくボーイッシュ、大きな瞳でにこにこ笑ったり怒ったり、表情が豊かなところが大きな魅力だった。勝ち気でさばさばしていてるところもあって、特に後輩女子から慕われるタイプだった。
 
 さらにスポーツも得意で、中学時代は水泳部、高校時代はテニス部でそれぞれ全国大会に出場していた。大学では両方の体育会から誘われたが学業中心に考えて断り、その代わりに、それぞれ強豪のテニスサークルと水泳サークルに入っていた。ボーイッシュなショートカットで快活にスポーツに打ち込む姿と爽やかな笑顔、83、60、84のスタイルが男子たちを魅了していた。

 当然、高校時代も大学に入ってからも男子たちからの誘いは耐えなかったが、きちんと付き合ったのは二人だけだった。しかし一人は優等生タイプで線が細く、一人はスポーツマンで頼りにはなったが話のレベルが合わなかった。結局、付き合ったのはほんの短い期間だけで、キスさえすることはなかった。
 大学に入ってからは、法学部、テニスサークル、水泳部のいずれにおいても男子からの誘いがあったが、彩は笑ってかわしていた。勉強も水泳もテニスも楽しくて、特定の男子と付き合う気になれなかった。あるいは、理想が高くて、彩の心を掴む男子がいなかったと言えるかもしれない。

 2年生の夏。彩の目下の課題は、所属しているテニスサークルの「WTC」をどう立て直すか、だった。学内サークル対抗戦で毎年のように優勝者を出していた
WTCだったが、4月になると4年生は就職活動のために退会し、代替わりになるはずだった3年生の女子達が仲違いを起し、全員退会してしまったのだ。

 そうなると2年生の中でキャプテンを決めるしかなくなり、全員一致で彩が選ばれた。彩はテニスサークルに専念するために水泳サークルを退会しようとしたが、こちらでも強く引き止められた。競泳退会が夏休みの終わりにあり、彩は選手に選ばれていたのだ。

 その結果、両方のサークルの夏合宿は、長野の高原の同じ場所で行われることになった。彩が連続して両方に参加できるようにするためだった。8月の最初の週は水泳サークル、次の週はテニスサークルの合宿というハードスケジュールになった。水泳サークルの合宿に参加しながらも、彩はテニスサークルをいかに強くして、秋の学内サークル対抗戦に勝つかを考えていた……

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 W大学社会学部の2年生、滝沢浩は、うきうきしながらテニスサークルの合宿に参加していた。これから数日間、彩のテニスウェア姿を堂々と見て、写真を撮ることができるからだった。

 W大学に入学した当時、そもそも浩がテニスサークルに入ったのも、彩の可愛いテニスウェア姿を見ることができるのが大きな理由だった。実は滝沢は、彩とは高校時代にも同学年だった。浩はその頃から彩を知っていて憧れていたのだが、彩の方は自分の存在を知らないといった間柄だった。彩がW大学を受けると聞いて、滝沢の学力はそれほどではなかったが必死に勉強して、なんとか社会学部に合格できたのだ。
 サークルの中では、やはり彩の可愛さが際立っていた。ちょっと童顔の顔立ちで大きな瞳も魅力的だったし、、胸と尻の膨らみがテニスウェア越しにもはっきり分かるのがたまらなかった。彩はあっという間に、サークルの男子の人気を独り占めにしてしまった。

 サークルの練習は週2~3回程度だったが、浩は彩が出席しそうな時ばかりを狙って参加していた。またそれは、テニス自体に熱心でない他の男子たちも同様だった。
 ただ、テニスもうまい彩はテニスに熱心な男子とのラリーをすることが多く、浩たちにはあまり触れ合う機会がなかった。飲み会などでは気軽に話をしてくれるのだが、いかんせん競争率が高く、なかなか親しくなることができなかった。

 それでも何度か親しく話をすることができた浩は、合宿の前、彩を軽くデートに誘った。しかし、「今は勉強と水泳サークルとテニスサークルで精一杯で付き合うことはできない」と、笑顔であっさり振られていた。
 浩はやむなく、サークルで撮った写真の中で彩が写っているものを眺めることが日課になっていた。ただ、日常のサークル活動の中では堂々と女子の写真を撮ることは難しく、彩が写っているのは集合写真だけだった。小さく顔の映った写真の画像を眺めながら、浩は切ない思いを抱えることになった。一度だけ見た、風で捲れ上がったスカートからのパンティ姿を何度も思い出していたが、徐々にその残像も薄れてきていた。

 しかし2年の夏合宿では、サークルのホームページに載せるという名目で、自分が撮影係になることができたのだ。これで、彩の写真を堂々と撮れる……いい写真を見せて話かけたりすれば仲良くなれるかも、ひょっとしたら、それがきっかけで付き合えたりして……合宿初日、浩は彩のウェア姿にカメラを向けながら、大きく弾む胸を見つめていた。

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 合宿初日の彩のウェアは、トップスは紺のTシャツ風で、スコートは白地で裾に2本の濃紺のストライプが入っているものだった。いかにも飾らない性格の彩らしかったが、トップスとスコートから伸びる腕と脚が、健康的な輝きを放っていた。昨日まで水泳サークルの合宿に参加していたため、肌が少し浅黒く灼けているのも魅力的だった。サンバイザーとリストバンドも同じく白地に紺のストライプで、爽やかさを際立たせていた。無邪気な笑顔を浮かべてラケットを構えている姿を、男子たちが眩しく見つめていた。

「可愛いなあ。けど、もう少し色気があればなー」
 彩の後ろのコートサイドでシャッターを切りながら浩は思わずつぶやいた。

「凛々しい感じでいいんだけどな」
「ああ、胸と尻はあるのに、もったいないなあ」
「顔も可愛いんだけど、ちょっと子供っぽいっていうか」
「もうちょっと可愛いウェア着ればいいのに」
「まあ、そこが若杉のいいところだけどなー」
「昨日までは水泳サークルの合宿だったんだよな」
「見たいな、彩ちゃんの水着姿」
「ビキニでテニスしてくれないかな(笑)」
「滝沢、ちょっと写真見せてくれよ」
「パンチラ撮れたか?」
 いつの間にか、浩の周囲に男子が寄ってきて、彩のテニス姿を眺めながら勝手なことをしゃべっていた。

 男子たちの注目を浴びながらも、彩は練習を続けた。とにかく、大会まで時間がないのだ。少しでも早く仕上げないと……
 ラリーを続けていると、チャンスボールが飛んできた。彩は口を半開きにして可愛い唇からピンクの舌を突き出した。それは彩のいつもの癖だった。タイミングを計って素早くラケットを引き、高く弾むボールに合わせて地面を蹴った。

「おお、ジャンピングショット!」
「あはは、ちょろっと舌出しちゃうのが可愛いな」
「おい、着地の瞬間、ちゃんと撮れよ!」
「分かってるって!」
 いつの間にかコートの横に移動している滝沢と男子たちの声が聞こえた。

(チャンスボールよ! ここで絶対に決めるんだから)
 彩は雑音に気を取られないように集中した。

「うわ、先輩、かっこいい!」
「舌ぺろっと出すのが可愛いよね(笑)」
 後輩女子たちのざわめきも聞こえてきた。

 次の瞬間、彩は高い打点からラケットを振り切り、見事にショットを決めた。
(よし、決めたわ!)
 しかし着地の瞬間、スコートの裾が大きく捲れあがった。

「おお、見えた!」
「アンスコ丸見え!」
「今日はピンク、可愛い(笑)」
「アンスコもお子ちゃま!」
「太ももむっちりだな?」
「滝沢、ちゃんと撮ったか?」
「ばっちり撮ったって!」
 男子たちのヒソヒソ声が聞こえた。女子たちも気づき、不快そうな顔をしていた。

(もう、男子がうるさいわねえ!)
 彩はプレーを止め、男子たちに顔を向けた。滝沢たちはそれに気づかず、カメラで今撮った写真を見てわいわい言っていた。きっと自分のアンスコが映った写真だろう……
(アンスコなんて見て何が嬉しいのよ、バカみたい。よーし……)

「すみませんねー、子供っぽくて」
 突然、女子の声がコートに響いた。浩たちがぎょっとして声の方向を見ると、ストロークをやめた彩が後ろを振り返り、腕組みして立っていた。
「色気もなくて悪かったわね、滝沢くん!」

「あ、い、いや……」
 全部聞こえていたのか?、浩は冷や汗を掻いた。高校時代から、怒った時の彩は容赦がないと噂になっていた。男子同士でつい話し込んでしまったため、いつから振り返っていたのか分からなかった。
「違うんだよ、冗談だって」
 腕組みして瞳に怒りの色を浮かべている彩を前にして、浩はうろたえた。
(でも、腕組みをすると胸が強調されるんだよなあ)

「あのさー、滝沢くん」
 その様子を眺めていた女子が声をかけた。
「さっきから、若杉さんばっかり撮ってたよね?」
 それは、2年生女子の根本優香だった。

「そうそう、他にも女子はいるのにねー」
「しかも、ローアングルっぽい撮り方もしてたよね」
「レシーブの時にお尻のところにカメラ向けたり」
「ほんと、このサークルの男子って最低ね」
 他の女子たちもいつしか練習をやめて、浩たちを睨みつけていた。

「おいおい、ちょっと待ってくれよ」
 3年男子で、サークルのチーフの武田が口を挟んだ。
「男子チームは今年も優勝候補なんだからな。真剣にやってるぜ」
 まあ、選手じゃない奴は適当しててもいいけどさ、と声が響くと、コートは笑いに包まれた。

「いやいや、俺だって真剣にやってますよ」
 浩は口を尖らせた。
「ただ、この合宿では撮影係もしているから……ホームページにいい写真載せれば、宣伝にもなるじゃん」

「へーえ、それが、サークルの宣伝が私のパンチラ写真なわけ?」
 腕組みしたままの彩が薄笑いを浮かべた。その瞳はもちろん笑っていない。
「ねえみんな、滝沢くんの撮影係はやっぱりやめってことにしてもいいかな?」
 賛成、女子の方がいいんじゃないの、そもそもみんなで撮ればいいじゃない、と女子達の同意の声が続いた。

「いや、ちょっと待ってよ! 俺だって一生懸命やってんだからさ!」
 浩は慌てて言った。せっかく堂々と女子のテニス姿を撮影できる機会を取り上げられてはたまらない。周囲を見回したが、同意を示してくれる女子はいなかった。
「それじゃあさ、俺とテニスで勝負して決めないか?」
 女子達からの冷たい視線を浴びながら、思わずそう口走っていた。
「俺が勝ったら、撮影係を継続ってことでいいよな?」

「はあ? あなたが私とテニスで勝負するわけ? へえ?」
 彩はラケットを肩に担ぎ、バカにしたような笑みを浮かべた。
「まあ、確かに滝沢くん、高校の時はソフトテニス部でそこそこ強かったみたいだけど……硬式だったら、バックが全然ダメじゃない?」

 確かにそれは事実だった。ソフトテニスはボールが柔らかいため思い切り叩く必要があり、ラケットの握りが硬式とは90度違っていた。バックハンドについては、ソフトテニスではフォアと逆の面で打つのだが、硬式ではフォアと同じ面でうつ。それは卓球のラケットのペンとシェイクの違いと同じだった。
 そして浩はまだ、硬式のラケットの握りに慣れておらず、無理やりソフトテニスの握りで打っていた。そのため、フォアでは強い球が打てるのだが、バックハンドでは弱弱しい球しか返せなかった。彩とも何度かラリーの練習をしたことがあり、フォアではいい勝負になるが、バックではからきしだった。

「ああ、だから条件がある。硬式の経験が違う分、条件を付けさせてほしい」
 浩は彩を見つめた。怒っている顔も可愛いんだよな……
「勝負は1セットマッチで。まずは俺のサービスゲームからすること。それから……」
 浩は舌を舐めた。思いつきだが、もしこの条件が認められれば……
「ゲームを取られた方は、服を1枚脱ぐこと。脱ぐことができなければギブアップってことで、そこで負け」

 一瞬、コートが静まった。それでは野球拳のテニス版ではないか……女子達の顔は怒りに朱に染まり、男子たちは期待と困惑の入り混じった微妙な表情になった。

 ちょっと、バカなこと言わないでよ、と周囲の女子の声があがりかけた時、ひときわ大きな声が響いた。
「分かったわ。いいわよ、その条件で」
 それは彩の声だった。ゲスな提案にその瞳は怒りに燃えていた。
「その代わり、私からも条件があるわ。あなたは男子なんだから、途中のギブアップはなしよ」
 彩は確信していた。浩のサーブは確かに速いが、確率は3割くらいだ。フォアで打ち合ってもほぼ互角、バックは圧倒的に自分の方がうまい。ネットプレーも自分の勝ちだ……負けるはずがない。それどころか、1ゲームだって取らせない自信があった。ギブアップなしにしたのは、本当に浩を裸にするつもりはないが、脱げなくなったら詫びを入れさせ、女子に失礼な提案をしたことを反省させるためだった。

 二人のやりとりを見ていた部員たちから歓声が沸いた。皆、彩の完勝を確信していた。きっと、滝沢が負けて、このコートで裸にされてしまうのだ……
「でも、可哀想だから撮影は駄目だよ、みんな!」
 勝ち誇った彩の声が響いた。女子をいやらしい目で見ている男子をこの場だけでこらしめてやればいい……それが彩の考えだった。

「ああ、分かったよ、それでいいよ」
 浩は強気な声で応じた。
(とにかく、最初のゲームで連続してファーストサーブを決めれば、アンスコを脱がせられる。なんとかもう1ゲーム取れば、きっと若杉はギブアップするはず)
 そう思いながら、彩のテニスウェア姿を眺めた。2ゲーム取れば、うぶな彩は、トップスを脱いで上半身ブラ姿を晒すことも、スコートを脱いでパンティを見せることもできないだろう……試合に勝てなくても、2ゲーム取ればいいのだ。

 それに……浩は頭を巡らせた。
(試合中に「あれ」を試してみるか。どのくらい使えるか分からないけど)

「ちょっと、何ぼけっとしてるのよ!」
 気が付くと、彩はもうコートの反対側でラケットを構えていた。
「時間がもったいないから、早く始めなさいよ!」

「1セットマッチ、プレイ!」
 チーフの武田が審判台に座り、ゲームの開始を宣言した。

 これが、彩にとって想像したこともない羞恥地獄につながることになるとは、彩も浩も想像していなかった……

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