PART 14

「ルールだからな。早くしてくれ、若杉」
 静まったコートに、審判役の武田の声が響いた。

「……」
 本当にコートでウェアを脱ぐなんて……彩はまだためらっていた。
(お尻まで見られて、まだ続けなくちゃいけないの? お願い、誰か……)
 彩は再び、救いを求めるように周囲を見回すした。

 しかし、返ってきた声は期待とは異なるものだった。
「先輩、負けないでください」
「ここで逃げたら男子が調子に乗っちゃいますよ」
「お尻見られたのは可哀そうだけど頑張ってください」
「あれ、何脱ぐか迷ってる?」
「もう、パンティ脱いじゃえば(笑)」
「いいねえ、若杉のノーパンテニス!」
 女子たちは応援の声、男子たちはからかいの声を上げ、どちらも今後の展開に期待する目で見つめていた。

 いつもは凛とした表情の彩だったが、今はうつむき加減になり、目が泳いでいた。ただそれは、裸のお尻を何度も見られてしまい、さらにはブラだけの上半身にならなければならないのだから、十代の女子としては当然だった。
「……」
 コートには沈黙が訪れたが、誰もが彩の脱衣を待っているのは明白な空気だった。
(お尻を見られたけど、スコートを脱ぐことはできない)
 彩は皆の注視を痛いほど感じながら、ブラウスの裾を掴み、ゆっくりと持ち上げていった。

 サークルの男女に囲まれ、テニスコートの上で彩はついにブラウスを脱ぎ、上半身ブラのみの姿になってしまった。首や肩に感じる陽光の暖かさ、お腹と背中に感じる外気の流れに恥ずかしさが改めて込み上げ、彩は思わず両手で胸を庇った。
「あの、やっぱりこんな格好でテニスなんて、できな……」
 ついに弱音を吐きかけた彩だったが、その声は皆の歓声にかき消されてしまった。

「おお、水色ブラ!」
「ブラも可愛いよ」
「お尻もプリプリだけどオッパイもかな?」
「次取られたら下着だけ!」
「その次は、オッパイ丸出し!(笑)」
 男子たちは彩の上半身に容赦なく視線を突き刺し、からかいながら興奮していた。

 彩の両胸を庇う腕に力がこもった。
「そんな目で見ないで! もういや、こんなの……」
 あまりの恥ずかしさと屈辱に目の前がうっすらとぼやけてきた。足が小さく震えてしまう。

 すると今度は、心配そうに見守っていた女子たちから声が上がった。
「先輩、頑張ってください!」
「この前だって、ここから勝ちましたよね!」
「負けないでください!」
「ブラ姿なら前も見られてますよね!」

「そ、そんな……」
(同じ女子なら分るでしょう?)
 確かに前回もブラだけの上半身になってしまったが、だからと言って恥ずかしさが減るわけではないのに……彩はちらりと視線を向けたが、目が合った女子たちは笑顔でガッツポーズを作って見せるだけだった。

「あのさ、罰ゲーム一つ追加しないか?」
 コートに浩の声が響いた。罰ゲームって?と皆の視線が集まった。
「ゲームを取られて一枚脱いだら、隠さずに、笑顔でその格好を説明して挨拶する、ってのはどうかな」

「…え?」
 彩はいきなりの提案に戸惑った。この格好で笑顔になって、みんなに説明するってこと……そんなこと!

「いいわよ!」
「これ以上取られる訳ないんだし」
「そうよね」
「背水の陣ですね!」
 麻実と美里が声を上げると、周囲の1年女子が同調する、という流れがすっかり出来上がっていた。今まで練習でしごかれていたので、美人の先輩が恥ずかしい姿になるところを見てみたい、という意地悪な気持ちを共有していた。

「まあ、ちょっと可哀そうだけど……」
「でも、これからゲームを落とさなければいいんだしね」
「彩が滝沢くんに3ゲーム連取されるわけないよね!」
「滝沢くんが負けたら同じ罰ゲームするんだよ!」
 2年の女子たちは1年女子たちが作った流れに逆らえずに同調した。同学年として彩に同情する気持ちはあったが、やはりどこかで、いつも男子の人気を独り占めにして涼しい顔をしている彩への嫉妬もあった。

 こうして追加されたルールにより、彩は上半身はブラだけ、下はスコートの姿で両手を後ろに回し、笑顔で挨拶をさせられることになった。
 両手を後ろで組むと上半身がギャラリーに向けて突き出され、胸を見てください、と言わんばかりの格好になった。
「……若杉彩、ゲームを取られたので、上はブラジャーだけでテニスします」
(ああ、悔しい……)
 彩はなんとか笑顔を浮かべていたが、皆の視線がブラに包まれた胸に集中するのを感じ、小さく震えるのを止められなかった。

 しかし、彩の想像以上に、その姿はギャラリーに感銘を与えていた。上半身ブラだけの彩の身体は、水着で隠れている部分は抜ける用に白く、陽光を受けて眩しく反射していた。また、少し頬を赤らめながら笑顔で挨拶する姿はいつもの凛とした雰囲気と違って可愛らしかった。もちろん、明るめの水色のブラに包まれた胸のカーブも魅惑的だった。

 一瞬、その美しい姿に見とれたギャラリーは、すぐにからかいや応援の言葉を浴びせた。
「よくできましたあw」
「生意気だった彩ちゃんがブラ丸出し!」
「あと2ゲームでオッパイも見られるぞ」
「頑張れよ、滝沢!」
「先輩、かわいいですよ」
「水泳部では水着姿ですしねー」
「これ以上取られなければいいんですよ」

 喧噪に包まれたコートで、彩はたまらず声をあげた。
「わかったわ! 早くゲームを続けましょう」
(女子までひどい。もう、絶対に落とさないんだから!)
 強制された笑顔の裏で彩は再び決意を固めていた。

 長い中断の後、ようやく第3ゲームが始まった。 今度は浩のサービスの番だ。

 彩がためらいながらレシーブの構えを取るために両手を胸から外すと、ギャラリーが小さくざわめいた。さっきの、両手を後ろに回しての挨拶も良かったが、その恰好でテニスをする姿が見れるのがたまらなかった。ラケットを両手で握ってサーブを待つのが彩のスタイルであるため、前かがみで揺れるブラに包まれた胸を隠すことができない。また、いつもは凛としている彩が涙目を隠せなくなっているのも刺激的だ。
「おお、すっげえ」
「妄想が現実化(笑)」
「これはたまらん(笑)」
……すかさず、男子たちのひそひそ声が聞こえてきた。

(嘘でしょ、こんなの……)
 あまりの恥ずかしさと悔しさに彩は頭の中がぼうっとしてきた。目の前の視界がぼやけてしまい、必死に目を大きく開けてボールを見ようとした。

 それは、彩を罠に陥れている3人にとって格好のチャンスだった。
(よし、今よ)
(ちゃんとサーブ打ってよ)
(分かってるって!)
 麻実と美里が視線を向けると、浩は小さくうなずいた。コースは大体で、とにかく強く打てば……

 浩が強めのスイングでサーブを打つとすぐに時間が停止された。サーブのコースを微妙に移動し、ボールはコーナー一杯に決まり、彩の後方へと跳ねていった。
「フィフティー、ラブ」
 彩が茫然とする中、すかさず武田のコールが響いた。

「おお、サービスエース!」
「どうしたんだよ滝沢」
「そんなにサービスうまかったっけ?」
「気合入ってるなー」
「いや、エロの力だろ(笑)」

(もう、どうして急にうまくなるのよ)
 彩は浩を睨み付けたが、にやりと笑い返されただけだった。このままこのゲームを落としたら……それどころか、3ゲームを連続して取られたら……彩の脳裏に嫌な想像が広がり、身体をびくっと震わせた。

 彩0ー浩15からの2ポイント目。

(このポイントを落としたら0−30になっちゃう……絶対にフィフティオールに戻さないと)
 今度は逆サイドのコーナーに入ったサービスに、彩は飛びついてラケットを当て、必死に返した。再びのサービスエースと思ったギャラリーがおおっとどよめいた。

 そのポイントはそれからしばらくラリー戦になった。
(うわ、すっごい、若杉先輩!)
(ふふ、粘ってくれた方が遊び甲斐がありますね)
(お前ら、鬼だな……)
 麻実と美里は交互に時間停止を行い、浩のピンチを救い、彩が左右に走り回るように仕向けた。

(ああ、どうして決まらないの……)
 何度もいいショットを打っているのに浩に返され、彩は息が上がりかけていた。頬が火照り、顎が少し上がってしまう。

 それはギャラリーにとってまたもや格好の見世物となった。左右に走り、ラケットを振るたびに、ブラだけの胸が揺れる姿を見られるのだ。
「若杉の胸、やっぱりでかいなあ」
「水着もいいけどやっぱりブラだな(笑)」
「乳首立ってないか?(笑)」
「見られて興奮してる?」
「先輩、頑張って!」
「野次は気にしちゃだめ」
 男女の声が入り乱れる中、ラリーは続き、彩のブラだけの上半身が見世物になっていた。

 しばらくしてギャラリーが堪能した頃を見計らい、麻実と美里は頷きあった。
「滝沢先輩、そろそろ決めてください」
 時間停止をして、外れかけていた滝沢のサーブを再度ぎりぎりに落とした。

「サーティ、ラブ」
 またもや茫然とした彩の耳に、武田のコールが聞こえた。

 3ポイント目はあっさりサーブを決められ、彩0ー浩40となってしまった。

 4ポイント目。
 あと1ポイントでゲームを失う彩は、必死に自分に渇を入れた。
(どうして瀧沢くんのサーブがあんなによくなったの……とにかく1ポイント返さないと)
 2人の後輩女子の時間停止に弄ばれているとも知らず、彩は必死にボールを追いかけるしかなかった。ブラだけで揺れる胸も、アンスコをはいていないのでスコートが捲れる度に見えるパンティも隠すことはできない。

「おお、また左右に振られてる」
「おっぱい揺らしてスコートひらひらして、いいねえ」
「先輩、がんばってー」
「一本返しましょう
「ファイトー」
「パンチラもエロイよー(笑)」
 気にしないようにしても、からかいの声が時々耳に入ってしまい、彩の羞恥を煽った。

「あ、またパンティ脱げてる!」
(う、嘘!?)
 それは嘘だったが、一瞬気を取られた彩は足が出るのが遅れた。
(あ、まずい!)
 コートの反対側に打ち込まれ、彩は焦った。

 ボールは彩のフォアサイド深くに向かっていた。今の彩ば反対側のバックサイドにいた。
「よし、これで決まりだ!」
「スコート脱衣決定!」
「きゃあ」
「だめー!」
 ギャラリーはポイントを確信し、コートが悲鳴と歓声に包まれる。

(大丈夫、絶対に取るのよ!)
 彩はボールを睨むように見つめ、スコートが捲れるのも気にせず全速力で反対サイドへ走った。
 ボールがコート深くに落ちて弾み、低く跳ねていく。彩との距離はまだ2メートル近くあった。普通であれば諦めるところだ。
(まだ間に合う!)
 大股を開き、思い切りダッシュした。後ろからはパンティ丸見えだろうが気にしていられない。
(きっと届く!)
 彩の驚異的なダッシュにより、ボールに追いつきそうなところまで来ることができた。走りながらラケットを持った右腕を伸ばす。

 しかし、非情にもコートに跳ねたボールはサイドに切れていた。二人の女子が慌てて追加の時間停止をしたためだった。
(絶対取る!)
「嘘だろ?」
「まじかよ?」
「取れますよ!」
 普通に走っては取れない……彩は身体を前に思いっきり倒し、ダイビングする格好になった。
(お願い、届いて!)

「うおー」
「すげー」
「まじで取れるかも」
「きゃあ」
「うわっ」
「お願い!」

(よし、届く!)
 空中を横になって飛ぶ彩はラケットの先端で奇跡的にボールを捕らえるのを確信した。ラケットの先っぽだけど、何とか振り切れば……

 麻実が時間停止を行った。
「嘘でしょ、本当に追いつくなんて……」
「もう、危ないなあ」
「ボール1個だけ、ずらしましょうね」
「どうせ返ってくるのはチャンスボールなんだからそこまでしなくても……ごめん」
 最後の浩の言葉の最中に二人に睨みつけられ、浩は苦笑して謝った。

 時間停止解除。惜しくもボールは彩のラケットの先端を掠めていった……ギャラリーがどよめいた。

(え、嘘…)
 彩は次の瞬間、上半身からコートに着地することになった。
「くっ! う、うぅ」
 頭から地面に倒れこんだ彩はその勢いで腰が上がってしまった。
(痛い……痺れて動けない……だめ、こんな格好!)
 彩は今、顔を地面に付け、膝を90度曲げ、お尻を宙に突き出す格好になってしまっていた。両膝は肩幅より大きく開き、閉じることができない。スコートはすっかりまくれてしまい、パンティを隠す役目を果たしていなかった。

「大丈夫か、若杉?」
「痛そー」
「動けるか?」
「先輩!」
「大丈夫ですか?」
 突然の四つん這い尻突き出しポーズに、ギャラリーは心配の言葉を口にしながら駆け寄ってきた。

「いや、見ないで!」
 破廉恥で屈辱的な恰好を見下ろされる形になり、彩は悲鳴をあげた。しかし身体はまだ動かず、宙に突き出したパンティに包まれた尻を左右に振るのがせいぜいだった。

 それは男子たちにとってはあまりにも楽しい見世物だった。サークルで一番の美少女が晴天下のテニスコートで、ブラもパンティも丸出しにして四つん這い姿を晒しているのだ。
「見ないでって言われても(笑)」
「ケツ突き出してるの若杉だし(笑)」
「というか、お尻振って挑発するなんて大胆だな」
「今度はパンティ脱げなくて良かったねー」
 からかいの言葉を浴びせる度に脚と尻が小さく震えるのがおもしろくて、男子たちは次々に言葉嬲りをした。

 それは数十秒の出来事だったが、彩にとってはその何倍にも長く感じられた。ようやく身体に力が入るようになった彩は、痛みを堪えながら腕を伸ばし、地面を押した。
「……くっ!」
 痛みを堪えて腕を伸ばし、彩は地面についていた上半身を持ち上げた。
(男子たちにこれ以上見られるなんて我慢できない)
 しかしそれ以上一気に動くのは無理だった。彩は腕を地面についた四つん這い姿をしばらくギャラリーに披露することになってしまった。
「ちょっと、見ないでよ」
 強気なポーズは、恥ずかしさを隠すための彩のせめてもの意地だった。

 しかし今度は、ギャラリーが絶句する番だった。彩のブラから乳房がこぼれてしまっているのが見えたのだからそれも当然だった。さっき、ダイビングした着地のときにブラが押し下げられたのだろう……
 四つん這い姿の彩を立って囲んでいるので、真正面から胸を見ることはできないが、四つん這いで地面に向けて突き出ている乳房の横側と、その先端の赤い乳首も少し見える……
(え、あれ?)
(ブラがずり上がってる)
(気づいてないな)
(身体が痺れてるから違和感感じないのかな)
(気づくまで黙って見てようぜ(笑))
(若杉のおっぱい!)
 男子たちはヒソヒソ話をしながら彩の胸をにやにやと見ていた。

「ちょっと、こそこそ何話してるのよ?」
 かちんとした彩が毅然とした声をあげた。
(四つん這いの恰好を見られたのは恥ずかしいけど、舐められたら駄目よ……)
 身体が動く程度には痺れがおさまってきたため、彩はその場にすっくと立ち上がった……



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