PART 14

 理絵が黒木に呼ばれたのは終業時刻の間際だった。洋子と真奈美も一緒に呼ばれる。
「我々で修正案を作った。広田部長、谷村課長もこの案で了解済みだ。」
そう言って、A4の一枚紙を3人に配る。タイトルに「ナコール社プレゼン修正案」と書いてあり、下に箇条書きで修正項目が10項目並んでいるだけだった。

 内容にさっと眼を通しながら、理絵は呆れた。(何よ、これ。『修正案』って言ったって、大したことないことばかりじゃないの。私のをそのまま使ったら一課の面子が立たないってだけなんじゃないの。)
 しかし、最後の項目を読んで、理絵は意味が分からず質問した。
「課長、最後の『よりインパクトのある発表スタイル』ってどういう意味ですか?」
自分の発表態度が良くなかったとでも言うつもりなのか、と思わず鼻白む。

 「いやいや、君のプレゼンは良かったよ。ただ、何て言うのかな、もう少し、ビジュアル面をね・・・」
黒木は珍しく歯切れの悪い口調だった。
「その点については、本木君と中村君に話してあるから、彼女たちの言うことを良く聞いてくれよ。これは部長命令でもあるからね。よろしく頼むよ。」

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 翌日、いよいよナコール社社内システムのコンペの日。コンペは午後の3時から始まり、今は最初の発表者のNOCのプレゼンが行われていた。内容はそれほど練られたとも思われない平凡なレベルだった。後ろの席でそれを見ていたFJEのメンバー達は、客観的に見ても明らかに自分たちのものより下だと確信していた。

 今日のコンペに参加するFJEのメンバーは、黒木、松本、原田、洋子、真奈美、理絵の6名だった。最初、そのメンバーを知ったとき、一課の連中は五課は女の子を派遣するのが仕事だと思っているのか、と理絵は馬鹿にされた屈辱に憤ったものだった。

 しかし、それよりも屈辱的なのが、今日の自分の格好だった。理絵は相変わらずパンストを穿くことを許されていない上に、スカートは膝上20センチ以上の超ミニだった。色はショッキングピンクであり、形はスーツではあったが、夜の銀座で働く女性の着る服だ。昨日の夜に黒木の指示で、洋子、真奈美と買いに行かされて購入したものだった。

 (何が、ビジュアル面のインパクトよ、こ、こんなの、ひどい・・・)周囲の男達の淫靡な視線がまとわりついてくるのを感じながら、理絵は羞恥に顔を真っ赤にしてうつむいていた。

 事情を知らないワコール社の男達は、なぜあれほどの美女が生足を根本まで丸出しにしているのかは分からないが、とにかくこのチャンスを逃すまいと、わざわざ後ろを振り向いては理絵の下半身に視線を走らせるのだ。 また、ナコール社は女性用下着メーカーだけあって、女性社員の割合が半数を占めている。仕事柄、他の女性の下着姿は見慣れていたが、コンペという場での理絵の恥知らずな格好に対し、一様に冷たい視線を送っていた。

 NOCの質疑応答が終わり、10分間の休憩に入った。この休憩時間の間に、理絵達はプレゼンの準備をしなければならない。理絵はシナリオにもう一度眼を通し、イメージの最終確認を行っていた。昨日の事前練習から変更はほとんど無いので、その点の心配はしていなかった。それよりも気になるのは、スカートの丈だった。(こんな格好でFJEの代表プレゼンをしなければならないなんて・・・)仕事に集中して気にしないようにしていたが、24歳の女が素足を付け根近くまで丸出しにしている、というのはかなり異様な格好だ。理絵はともすれば自分の下半身に眼をやって、羞恥に頬を染めるのであった。

 とにかく頑張るしかない、と理絵が精神の集中を高めていると、誰かが後ろから、その肩を叩いた。
「ごめんねぇ、理絵ちゃん、ちょっと変更、お願い。」
洋子と真奈美が立っていた。その言葉ほどには申し訳なさそうでも無く、薄く笑いを浮かべている。

 「え、どんな変更ですか?」
何を今さら、とむっとする気持ちを押さえながら、理絵は聞いた。今さら、大幅な変更などできる筈が無い。二人の笑顔が理絵を不安にさせる。

 「うん、簡単なことなの。最後にこれを入れてね。ね、簡単でしょ?」
洋子がそう言いながら一枚の紙を渡した。真奈美は理絵の反応を窺うようにその顔を覗き込む。

 「・・・こ、こんなこと、できません!」
理絵は思わず拒否した。屈辱に思わず体が震える。(洋子さん、あんまりよ! 人を何だと思ってるの?)

 そこには、最後の台詞として、『このような優れた社内システムの構築を弊社にお任せ頂ければ、ひいては貴社の素晴らしい製品がさらに消費者の心を掴むことになるとお約束致します。』と言いながら、ブラウスを脱いで上半身の下着を見せ、『私も愛用者です』と言ってにっこり笑うこと、と書いてあった。

 「どうしてぇ? 理絵ちゃん、ちゃんと言いつけ通り、ナコールのブラ、してるんでしょ?」
悪気などさらさら無い、といった顔で真奈美が言った。
「インパクトもこれならばっちりじゃない。理絵ちゃんの胸ってさ、おっきくてきれいな形で真っ白だもん!」
 「で、でも・・・」
あまりにも非常識なことでも、当然のように言われると何と言って良いか分からなくなってしまい、理絵は思わず口ごもった。しかし、いやしくも公のコンペの場で、プレゼンターがブラジャーを露出させるなんて、考えられない事の筈だ。

 しかし、洋子の言葉が理絵の逃げ道を塞いだ。
「そうよ、部長の命令に逆らうつもり、加藤係長。それなら、私にも考えがあるわよ。いつも気取った顔してる加藤係長が、どんな顔で快感に悶えるのか、営業部のみんなも興味あるでしょうねぇ。」
さっと青ざめる理絵を見ながら、洋子は続けた。
「それに、ここはナコールよ。みんな、女の下着姿なんて、飽き飽きするほど見てるんだから、そんな大騒ぎするほどのことじゃないわよ。ちょっとしたスパイスってとこかしら。」
洋子はそう言って、理絵のスーツのボタンを外していった。

 抵抗出来ずに上半身ブラウス姿にされてしまった理絵が困惑していると、ナコールの課長で、コンペの決定権を握っている佐藤が声をかけてきた。
「いやぁ、理絵ちゃん、すっごい格好だねぇ。こんなにきれいな脚をしてるなんて知らなかったよ。」
そう言って、視線を理絵の生足に蛇のように絡みつかせる。露骨にスケベな視線に、理絵は思わず嫌悪の表情を浮かべてしまう。しかし佐藤は、そんな理絵の思いには全く気付かず、
「まあ、頑張ってくれよ。コンペに勝ったら、みんなでお祝いしようね。」
と笑う。今度は理絵の豊かな胸をじっとちらちら盗み見ている。

 「あら、佐藤さん、ありがとうございますぅ。プレゼンでは、もっとサービスしちゃいますからね。」
洋子が愛想笑いをしながら手を伸ばし、、理絵のスカートの裾を軽く持ち上げた。股間近くまで太股を露出させられた理絵が悲鳴をあげる。
「ね、本当にウブで可愛い娘でしょ。今晩はじっくり教育してあげてくださいね。」
洋子は笑いながら佐藤にウインクした。佐藤は満足そうに笑いながら席に戻っていく。

 「な、何するんですかっ! いくらコンペだからって、こんなやり方をしていい訳は無い筈です。」
慌ててスカートを戻した理絵が強い口調で抗議した。今の騒ぎで、その場の男達の好奇の視線と女達の軽蔑の視線をすっかり集めてしまい、理絵は恥ずかしさに再び真っ赤になる。

 「もう、言っても分からないのかしら・・・」
仕方ない、といった表情で、洋子はプレゼン用のパソコンをいじった。用意してきたMOをセットすると、『コンペ・最終版.ppt』というファイルをダブルクリックした。ファイルを開くと、最後のページを表示させる。
「間違って、これ映しちゃったら、どうかしら、か・か・り・ちょ・う」

 「ひぃっ、い、いやぁ! 早く、早く閉じて下さい!」
興味津々という表情のギャラリーに聞こえないように、理絵は囁くような声で必死に哀願した。そこには、月曜に理絵がイかされた瞬間の姿が大写しにされていた。大股開きの下着姿で、パンティとブラに四方から男の手を突っ込まれて失神している理絵の表情はあまりにも嫌らしかった。
「ど、どうしてここに?」

 「うん、最初はね、『ナコール社の下着を着けてない私はこんな淫乱女でしたが、ナコール社に変えてからはこんなに知的になりました』って言って笑ってもらおうかと思ったんだけど、ちょっと、淫乱過ぎてしゃれにならないかな、と思ったの。」
理絵をいたぶる快感に、洋子を眼をきらめかせた。
「ね、この案よりはさっきの方がましだと思うんだけど、どうかしら? どっちでもいいわよ。」
もちろん、理絵に選択の余地が無いことを計算し切っていた。


 FJEのプレゼンが始まると、10名程のナコール社の面々はNOCの時よりも遥かに集中していた。しかし、その意識はプレゼンの内容そのものよりも、理絵の姿態に専ら向けられていた。なぜ、あの美女はあんな格好でプレゼンをしているのだ? 美しい声、知性を感じさせる落ち着いた語り口、気品に満ちた瞳・・・いずれも、理絵の今の服装から想像される女性とは全くかけ離れたものだった。部長の三村と課長の佐藤が事前に、今日のプレゼンのことは一切外部に話すな、と口止めしていたことも異例だった。

 それにしても何と色っぽい足なんだ・・・その場の男達はナコール、FJE、NOCに関わらず、理絵の足に見とれていた。熱っぽい視線を感じた理絵が、時折恥ずかしそうな表情を浮かべるのが、またたまらなく男心をくすぐった。

 そんな男達の様子を目の当たりにした女達は、当然、面白くない。(ちょっと、何なのよ、あの女は。自分の脚を本当は見せびらかしたくて仕方がないくせに。ウブなフリして男を騙そうなんて、むかつく!)事情を知らない彼女達には、思い切り短いタイトミニを穿いて生足を剥き出しにしているくせに、恥じらいの表情を浮かべる理絵の様子はあざとい女、という悪印象を与えるだけだった。

 男達の欲望に満ちた視線と女達の嫉妬と軽蔑の視線を浴びながらも、理絵のプレゼンは順調し進んで行った。
ファイル操作等を担当している洋子は理絵のすらりとした足と羞恥の表情を眺めながら、時折にやりと笑う。(さあ、理絵ちゃん、いよいよストリップショーの始まりね。ブラ見せるだけで終わると思っててもそんな恥ずかしい顔するなんて、ほんと、いじめ甲斐あるわあ。だけど、今日の予定を全部知ったら、どんな顔するのかしら?)

 そして、いよいよプレゼンが最後まで来た。
「このような優れた社内システムの構築を弊社にお任せ頂ければ、ひいては貴社の素晴らしい製品がさらに消費者の心を掴むことになるとお約束致します。」
理絵は美しい歯を見せながら、輝くような笑顔でそう言った。足ばかり見ていた男達も、思わずその美しさに見とれる。しかし、理絵の歯はかちかちと細かく震えていた。許しを請うように、洋子を見るが、洋子は冷たい視線を返すばかりだ。その手はマウスを握り、わざと理絵に見せるかのように意味ありげな動きをした。(いや、次のシートを表示しちゃ、だめ!)そこには理絵の下着での絶頂姿があるはずだ。

「実は、私も愛用者です。」
必死に笑顔を維持しながら、ブラウスのボタンに手をかけた。(こんな、こんなことが本当の筈が無いわ・・・)しかし、息を呑むギャラリーの様子は、これが現実であるということを嫌と言うほど理絵に思い知らせた。

 素早くボタンを外してブラウスを脱ぐと、すかさず真奈美が引ったくるように奪う。これで理絵は、上半身はブラジャーだけ、下半身は膝上に20センチの超ミニタイトスカートで生足、という半裸姿になってしまった。しかも、ブラは洋子に指定された、布地の少な目のハーフカップブラなので、何とか乳首は隠れているものの、乳房の上の膨らみはほとんど露出してしまっている。

 今はプレゼン中だから、理絵は両腕で胸を庇うことも、恥ずかしそうな表情を浮かべることも許されない。笑顔で皆に視線を投げ、
「ご静聴、ありがとうございました。」
セミヌード姿のまま、最後の一礼をして、理絵は耳まで赤くなっていた。自分が公の場で晒している痴態を考えると、死んでしまいたいほど恥ずかしかった。恥知らず、と言いたげな同性の冷たい視線が辛かった。
 

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