PART 46(bbbb)

 体育館の中は重苦しい空気に包まれた。ついに、梨沙が全校生徒の前で全裸になるように要求されてしまった。そして、それを助ける術はなく、ただ見守らなくてはならない・・・梨沙ちゃんは、学校の他の女子のために犠牲になるだけなのに・・・

 「・・・は、はい・・・」
梨沙は蚊の鳴くような声で返事をすると、演台から離れ、ステージの前ぎりぎりに立った。最前列の生徒からは、スカートの中が見えてしまう・・・梨沙はそう思ってから、馬鹿なことを考えた自分を内心で自嘲気味に笑った。

 『おい梨沙、笑顔を忘れてるぞ!』
すかさず、黒川の叱咤が飛んだ。しかし次の瞬間、その口調が急に柔らかくなった。
『・・・まあ、こんな空気じゃ笑えないか・・・なんか、しけた雰囲気だもんなあ・・・』

 黒川の言葉に、生徒達が戸惑った。一体どうしろというのか・・・

 そして、その疑問への答えはすぐにもたらされた。
『おい、お前ら、手拍子をしてやれ! 踊り子さんがやりにくそうで可哀想だろ』

 生徒達がまた戸惑った。それでなくても、裸にならなくてはならない梨沙ちゃんが可哀想なのに、はやし立てるように拍手なんてできるわけがないではないか・・・

 『おい、忘れたのか。俺の命令に従うのは、お前らも同じなんだぞ・・・梨沙、お前からもお願いするんだ! ストリップしやすいように手拍子くださいって。また笑顔、忘れてるぞ!』

 「みんな、お願い、黒川さんの言うとおりにして・・・お願い、ストリップしやすいように、手拍子して・・・」
梨沙がひきつった笑みを浮かべて言うと、体育館のあちこちから、控えめな手拍子がぽつりぽつりと聞こえてきた。
「お願い、みんな、協力して・・・」
梨沙の言葉に、手拍子は一気に広まった。そうだ、命令に従わないで時間がかかるということは、梨沙ちゃんの恥ずかしい時間を長くすることなんだ・・・

 パン、パン、パン、・・・体育館は、リズミカルな手拍子に包まれ、どこか楽しげな雰囲気になった。そして梨沙は作り笑いを顔に貼り付け、ついにブラウスのボタンを外し始めた。

 『梨沙、ちょっと固いぞ、上半身を適当にくねらせてみろ。それから、ケツも左右に振るんだよ! ほら、返事は!?』

 「・・・は、はい・・・」
梨沙は仕方なく答えると、ぎこちなく身体をくねらせ、腰を振り始めた。そして、ブラウスのボタンを一つ、二つ、三つと外していく。水色のブラが覗いてきたが、笑顔のまま、さらにボタンを外さなければならない・・・

 ふとスクリーンを見ると、ブラウスから水色のブラがのぞいている様子がアップになっていた。
(ああ、みんなにブラジャー姿を見られるなんて・・・)
梨沙はそう思いながらも、笑顔で腰を振り、ボタンを外すしかなかった。パン、パン、パンという手拍子が、少し早くなったように感じた。
 
 ブラウスのボタンを全て取り去った後、梨沙は少し躊躇った。これを脱いだら、上半身はリボンとブラジャーだけになってしまう・・・そしたら、その次は・・・本当に、ここで裸になって、みんなに全てを見られなくてはならないの?・・・パン、パン、パン、という拍手が次を催促しているように聞こえて辛かった。

 『おい、どうした、梨沙、ノリが悪いぞ?』
すかさず黒川が叱咤した。
『拍手だけじゃ駄目か?・・・よし、それじゃあお前ら、梨沙にコールをかけてやれ、脱ーげ、脱ーげ、ってな。もちろんこれは命令だぞ。』

 無茶な命令にしばらく戸惑っていた生徒達だったが、黒川に再度促されると、仕方なくコールが始まった。また、黒川は今度は梨沙からお願いするように命令させた。

 パン、パン、パン、脱ーげ、脱ーげ、脱ーげ・・・嫌々ながらとは言え、それはあまりに異様な光景だった。全校生徒が拍手と野次を飛ばし、一人の少女に脱衣を強要しているのだ。

 生徒達が同情の視線を向ける中、梨沙はついにブラウスを脱ぎ、床に置いた。

 『・・・長いな。このペースじゃあ、オナニーショーが終わるのは終電になっちまうぞ。』
呆れたように黒川が言った。
『それじゃあ、次、スカート脱いでもらおうか。ほら、笑顔、笑顔。お客様はもっと大きな声で応援してやれ。男子達も照れないで、笑顔で盛り上げてやれ。せっかく見せてくれるんだから、おっぱいも、ケツも、あそこの奥までじっくり見てやれよ(笑)』

 (ひ、ひどい、こんなの・・・)
数百人の生徒達が手拍子をして、脱ーげ、とコールをしている・・・その前で、裸になって、女の子の恥ずかしいところを全部見せなくてはならない・・・本当に? 誰か、助けて・・・何度も繰り返される思考が頭を巡ったが、やはり救いがないことを悟ると、梨沙は震える手でスカートのホックを外そうとした。脱ーげ、という掛け声に力が入ったような気がした。


 その時、大きな声が体育館に響いた。
 「ちょっと待って、梨沙ちゃん!」
真ん中の前側のブロックで、一人の男子が立ち上がっていた。
「おい、みんな、やめろ! 静かにしろ!」
その剣幕に、手拍子と掛け声が徐々に静まっていった。

 「え、柏原くん・・・?」
スカートのホックを外しかけた梨沙は、そのままの姿勢で呟いた。もしかして、助けてくれるの?・・・一縷の望みにすがりたい気持ちだった。 でも、どうやって?・・・

 『おい、またお前か・・・お前、バイクに素っ裸の梨沙を乗っけた奴だろ。』
黒川の声がやや不快そうな響きを帯びていた。
『なんだ、彼女の裸は独り占めしたいってのか?』

 「いいから聞けよ。・・・こんな取引、おかしいだろ。」
柏原は挑発に乗らず、冷静な口調で言った。
「女子二人の裸を流出させないために、生徒会長が裸になったら、条件が更に悪化するだけじゃないか。どうせお前らは、今度は生徒会長の裸をネタに、今後もずっと脅迫する気なんだろ?」

 『ほう、それじゃあどうする? 二人は見捨てて、あそこ丸出し動画を流出されても仕方ないってのか?』
黒川の呆れたような声が響いた。

 「とにかく、同じような脅迫のネタを提供するような交渉には応じられない。生徒会長が自分が犠牲になると言っても、これは学園全体の問題なんだから、副生徒会長として拒否する。このまま続けると生徒会長が言うなら、俺はすぐに先生に相談して、生徒総会への介入をお願いする。そうしたら、生徒の自主性に任せている教師達も静観できないだろうからな。」
柏原は流れるようにそこまで言うと、ステージの梨沙に顔を向けた。
「ごめん、梨沙ちゃん・・・でも、間違っていると思うんだ、こんなの。」

 そうよ、柏原くんの言うとおりよ!・・・そうだな、絶対にこんなのおかしいよ、・・・体育館のあちこちから声があがり、一気に雰囲気が変わった。
「ほら、みんな、いつまで見てるの! みんなで背を向けようよ!」
紀子の声が響くと、全校生徒が同調し、梨沙がいるステージに背を向けた。

 −−−渋谷の雑居ビルの一室。その様子を中継画面で眺めていた二人の男、黒川と木嶋は少し目を合わせてから頷き合った。
 これ以上つっぱねたら、高校生たちは強硬になるばかりだ。少し懐柔してから、目先を変えて脅してやるか。プランBだな−−−

 『まあ、そんなことはしないと約束してるんだが、信じられないってことか・・・まあ、それも一理あるな』
生徒たちにとって意外にも、黒川はあっさりと引いた。
『・・・で、それじゃあどうするって言うんだ、副生徒会長のお坊ちゃんは? 俺に手ぶらで帰れって言うのか?』

 「え、いや、あの・・・」
まさか、黒川があっさりと引き下がるとは思わず、柏原は戸惑った。実は、今言った言葉は、様子を聞かせていた芳佳からメールで送られてきた指示に従っただけだった。その先のことまでは指示にはなかった。
「だから、そんな条件はおかしいって、ことだ・・・」

 『お前なあ、それじゃあ交渉にならないだろ? 裸が無理なのは分かったから、じゃあ、どこまでならいいんだって、聞いてるんだよ。』
黒川が苛立った口調になった。
『なんなら、これ、今すぐ流出させてやろうか・・・こんな風にな!』

 黒川がそう言うと、ステージ脇の大スクリーンの表示が切り替わり、放尿している少女の画像になった。ちらりと見た女子の悲鳴をきっかけに、背を向けていた生徒たちのほとんどがスクリーンを振り返った。え、あ、っと言う声があちこちで上がり、体育館は緊張に包まれた。

 今、スクリーンに映されているのは、さっきと全く同じ構図の、放尿する少女の画像だった。ただ一つ、股間のモザイクがさっきよりもはるか薄い点だけが異なっていた。もはや、恥毛の生え具合や秘裂の部分の形まで分かってしまいそうだった。

 『さて、それじゃあみんな、完全にモザイク外した画像、見てみるか? 何なら、顔まで公開してもいいぞ。ここにいる誰かと同じだから、探してみるんだな(笑)』

 「や、やめろっ!」
柏原の声が響いたが、動揺を隠しきれなかった。
「分かったから、やめてくれ、頼む・・・」

 『ったく、だらしねえなあ・・・つっぱるなら、後先考えとけよ、お坊ちゃん・・・』
黒川がそう言うと、スクリーンの表示が切り替わり、梨沙の姿の生中継になった。
『それじゃあ、裸にならない範囲ならいいってことでどうだ。あ、他人に身体を触れることもないことも約束してやる。それならいいだろ?・・・まあ、駄目だって言うなら、さっきの動画、モザイクなしでばらまくだけだけどな。』



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