PART 73(bbbbx)

 突然、マジックミラーカーの車内に、外からの声が聞こえるようになった。それは、車の外側に設置されたマイクが拾った音を中で聞く機能だった。
「おお、この中で、何してるのかなあ(笑)」
「ちょっと、通行の邪魔なんだけど、交差点の真ん中でエッチしないでよ!(笑)」
「ねえ、ほんとにこの中でAV撮ってるの?」
「素人ものかな? AV女優ものかな?」
「絶対、この辺にいるぜ、裸の女!」
「ここでセックスしてるの? いい度胸してるなあ(笑)」
・・・

 「ほら、見てみろよ。すっごい数のお客さんがお前のこと、待ってるぞ」
にやにやしながらプロデューサーが言った。
「すずちゃん、度胸を付けるために、車から降りてみるか?(笑)」

 「い、いやです!・・・あ、あ、やめて・・・」
梨沙は切迫した表情で、乱れた前髪を額に張り付かせて悶えていた。
「も、もうだめ・・・トイレに、トイレに行かせてください・・・で、出ちゃう・・・」

 「よし、トイレに行っていいぞ!」
カメラマンが小さく頷くのを見ながら、プロデューサーがようやく許可を出した。
「・・・ただし、ちゃんとお願いするんだ。すず、おしっこ漏れちゃう、って、可愛く言ってみろ。」
プロデューサーはそう言いながら、ちらっと横のスタッフを見た。(よし、段取りどおり、マイクを逆にしろ・・・)

 『・・・すず、おしっこ漏れちゃう・・・』
小さな声が車から聞こえ、マジックミラーカーを囲んでいる男達は、一瞬静かになった。え、今、何か聞こえた。可愛い声で、おしっこって?

 『もっと大きな声で! 思いっきり、叫ぶんだ』
静まったギャラリーに、今度は野太い男の声が聞こえた。なんだ、何だ?・・・

 次の瞬間、スクランブル交差点に大きな声が響いた。
『・・・すず、おしっこ漏れちゃいます! おしっこ漏れちゃう! 漏れちゃうぅっっ!!』

 おおおおっっ、というどよめきは、さらに驚愕の声で上書きされた。急にマジックミラーカーの扉が横にスライドして、大きく開き始めたのだ。


 「・・・え?・・・」
目の前が真っ白になっていた梨沙は一瞬、何が起きたのか分からなかった。目の前の視界一杯に、大勢の男達がいて、こっちを見ているのは変わらなかったが、ドア枠がない分、視界が広くなっていた。また、外気の流れを全身で感じ、外の騒音が生で聞こえる・・・男達の驚愕の表情・・・その視線はさっきまでとは違い、梨沙の秘部に完璧に集中していた。
「・・・あ、う、うそ!・・・い、い、いやあっっ!!」
自分の悲鳴が車外のスピーカーで響くのまでが聞こえて、梨沙はさらにパニックに陥った。

 「ほら、ここがお前のトイレだ。みんなに見てもらいながらおしっこするんだ。」
プロデューサーの非情な声が聞こえた。
「あちこちに応援スタッフを配置してあるから、ばっちり撮ってくれるぞ。」

 「すずちゃん、それじゃあ、どうぞ(笑)」
背後のカメラマンが、とどめとばかりに梨沙が最も弱いつぼを押し込んだ。

 「あ、だ、だめっ、出ちゃうっっ・・・・あ、あ、いやああっっ・・・ああ・・・」

 ついに、梨沙の股間から、つーっと黄色の液体が噴き出した。カメラマンが気を利かせて、今度は両腕を梨沙の膝の下に入れ、幼女のおしっこポーズで抱き上げていた。その結果、斜め45度に勢いよく飛び出した梨沙の尿は、宙に向けてまっすぐ数メートル飛ぶと、方物線を描いて落下していき、目の前のギャラリー達に降りかかった。

 「うわあっ」
「きゃあ、いやあっ!」
「おお、大石すずだ!」
「すっげえ、ゲリラ放尿ショー!(笑)」
「あはは、ここでおま○こ丸出しにするか、普通?(笑)」
「露出調教スペシャル、また作るの?(笑)」
「今度のはずいぶん過激だねえ」
「おいおい、おしっこ、全然止まらないんだけど?(笑)」

 さんざん目の前のギャラリーを楽しませてから、マジックミラーカーは、大きなクラクションを鳴らした。アシスタントがハンドルを思い切り回し、マジックミラーカーはその場で回転を始めた。

 「きゃ、きゃあ、い、いやあ・・・見ないで、お願いっっ!」
車が回転するということは、梨沙にとって、違うギャラリーに向けて次々と、全裸開脚放尿姿を見せつけるということだった。我慢に我慢を重ねていたため、おしっこの勢いは全然収まらなかった。目の前の無数のギャラリーの顔、顔、顔・・・あっけに取られていたり、笑っていたり、エッチな目で凝視していたり、呆れたり、軽蔑したり・・・それは、ほんの二十数秒の出来事だったが、梨沙には永遠のようにも思われた。おしっこの勢いはまだ収まらず、高々と放物線を描き続けていた。

 車の横の扉を全開にして、スクランブル交差点で270度回転したマジックミラーカーは、そこで車側の信号が青になったため、信号を通過して走り始めた。交差点進入時からすると、結局その車は信号を左折することになった。そして、道路の左側は、最もギャラリーが多いところであり、大勢の通行人が押しくらまんじゅうをするようにしながら、全裸で放尿する梨沙の姿を追っていた。

 幸い、その通りでは信号にも渋滞にも捕まることはなく、マジックミラーカーは群衆から逃れることができた。1分近くおしっこが止まらず、羞恥地獄を死ぬほど味わった梨沙は、ぐったりと横座りになっていた。


 「いやあ、すずちゃん、最高だったよ! なあ、みんな? はい、拍手!」
車の中は大きな拍手に包まれたが、梨沙の顔はひきつったままだった。この前、ヘルメットで顔を隠し、お尻を見られてオートバイの後ろに乗っていただけでも死ぬほど恥ずかしかったのに・・・今回は、全裸で大股開きの姿を正面から晒し、さらに、剥き出しの股間から、尿を宙に向けて放出している姿を、何百人以上もの人に見られてしまったのだ・・・

 「どうした、すずちゃん、元気ないな・・・あ、これも演技か?・・・まるで、処女を奪われたみたいな顔してるな! おい、ちゃんと撮っとけよ、この顔!」

 「で、でも、写真に撮られたりとか、していませんか・・・?」
梨沙はようやく言葉を絞り出した。

 「うーん、まあ、あんないきなりの事態に対応するのは、普通は時間が間に合わないから、まず大丈夫だよ。」
プロデューサーはあごひげをさすりながら、こともなげに言った。
「まあ、でも、もし偶然写っても、顔とか、あそことかがばっちりピント合ってまずないから。そこは俺たちプロを信じてよ。まあ、スタッフの連中は事前に準備してたから、ばっちり録画してるはずだけどな!」

 「そ、そんな・・・」
AV会社に、ばっちりと録画されてしまったというのか・・・真昼の渋谷で、女の子の恥ずかしい部分を丸出しにして放尿する姿を・・・
「まさか、それ、販売するんですか・・・」

 「え、そりゃもちろん・・・というか、販売しない方が、俺たち変態ってことになると思わないか?」
プロデューサーは不思議そうに言ったあと、合点を得たという風に手をたたいた。
「ああ、警察のことが心配なのかな? それなら、まあ、何とかするから大丈夫。」

 「は、はあ・・・」
そんなことを心配しているんじゃない・・・と思ったが、言われてみれば、それも重大問題だった。もし、今回の放尿事件の件で警察の捜査が入り、演じた女がすずではなかったと証明されてしまった場合、どうなるのか・・・すずにそっくりの女子高生ということで聞き込みをかけられたら・・・いや、すずは今日、もともとK附の制服を着ているのだとしたら、真っ先にK附の女子ではないかと疑われるのではないか・・・破滅の予感に、梨沙は目の前が真っ白になっていくのを感じた。
「ほ、本当に大丈夫なんですか、警察の方は?・・・」

 大丈夫、心配ないから・・・と慰められながらその辺をぐるぐると走ったマジックミラーカーは、結局さっきのスクランブル交差点の近くに戻ってきて、裏通りの雑居ビルの駐車場に停まった。

 「・・・さてと、今日の撮影はもうおしまいにするか・・・」
車の中で、プロデューサーが大きく伸びをしながら言った。

 「え・・・?」
梨沙は意外な展開に驚いた。図書館では、今日はあと3つのロケをしなければと言っていたはず・・・仕事に厳しいプロデューサーが、突然今日は終わりだなんて・・・
「あの・・・いいんですか・・・」

 「うーん、まあ、良くは、ねえけどなあ・・・」
プロデューサーはあごを撫でながら苦笑した。
「でも、まあ、すずちゃん、今日は疲れただろ? いきなりあんな撮影しちゃって悪かったな。でも、すずちゃんがあんなに頑張って、いいシーンが撮れたから、今日の後のスケジュール、全部キャンセル!・・・ごめん、みんな! 俺が急に思いつきでシーン変更しちゃったからこんなことになっちまって。でも、すっごくいい作品になるから、許してくれ!」

 え、と驚いた他のスタッフ達は、すまなそうに頭を下げるプロデューサーを見て、やがて仕方ないなといった雰囲気で笑いあった。
「いいですよ。桂木さんの気まぐれスケジュール変更、いつものことですから!(笑)」
「渋谷の放尿ショー、最高でしたね。俺、久しぶりに興奮しましたよ!」
「編集の方には謝っときますから。悪いけど、スケジュール伸びたから、また徹夜で頑張って販売時期は変えないでくれってね。」
「あと、社長にも一言言っておきましょう。コスト管理にうるさいから、あの新米社長!(笑)」
「リスケするんなら、すずちゃんの魅力、最大限に引き出してあげてくださいよ、桂木さん!」

 そのやりとりを聞いて、やはりそれは大変な決断なのだと梨沙は察した。ロケ先との再調整、スタッフの人件費、制作の後行程のスケジュールの見直し、発売日までの段取り・・・全てを変えることは、すごく大変で、お金もかかるだろうことは梨沙にも何となく分かった。梨沙自身、生徒会長として、文化祭などのイベントに関わったことがあり、大勢の関係者がいる場合のスケジュール変更がどんなに大変か、よく知っていた。生徒のイベントですらそうなのに、大勢の生活がかかっているプロだったら・・・
 また、桂木と呼ばれているプロデューサーにとても人望があり、その人間味を他のスタッフ達が慕っていることもよく伝わってきた。なんかみんな、仕事には厳しいけど、とってもいい感じだな。大変なことがあっても、冗談を言って笑い合いながら乗り越えている感じ・・・こんな風に仕事ができたら、楽しいだろうな・・・私も、生徒会をこんな風に運営できたらいいな・・・

 それにしても、私がショックを受けてぐったりしているのを見て、プロデューサーは自分の責任で、全てをキャンセルしてくれた・・・強引に撮影を続けることだってできるし、その方がずっと簡単なのに、私のために・・・
「あの、ありがとう、ございます・・・すみません、私のせいで・・・」
思わず、感謝の言葉が出てきた。それは心からの言葉だった。

 「ばーか、何かしこまってんだよ。いいんだよ、そんなことは、すずちゃんが気にしなくたって。」
少し潤んだ瞳で少女に見つめられ、桂木は照れたようにあごを撫でた。
「だけどな、別に俺は、すずちゃんを甘やかすつもりはないからな。今日はもう、会社で少し休んでから帰っていいけど・・・」

 「はい・・・」

 「ただし、会社まではすっぽんぽんで行ってもらうからな。」
桂木がそう言うと、車の横のドアがすーっと開き始めた。
「ほら、降りた降りた! すずはもっと、露出の度胸付けなくちゃな!」



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