PART 80(bbbbx)

 梨沙よりも遙かに嘘を見抜く術に長けている3人にかかっては、柏原はひとたまりもなく、全てを白状させられてしまった。少しでも言いよどんだり、不自然なところがあると、3人が寄ってたかって追及したのだった。

 そして、柏原の知る限りの全てを聞いた3人は、土曜日に図書館から助けを求めてきた梨沙に対してのアドバイスが、とんでもない結果になってしまったことを知った。まさか、キスまでいくとは・・・そして、そこでスカートが脱げてしまって・・・図書館を下半身裸で逃げ回ることになるなんて・・・梨沙ちゃん、ごめんね・・・

 また、その後の柏原の行動に3人は憤った。スカートとパンティを持ってうろつき、連行されてしまう脇の甘さ・・・大石すずに会い、熱烈なファンであることを告白して、フェラまでしてもらおうとして、顔に向けて出してしまったこと・・・梨沙ちゃんが心細く待っていたはずなのに・・・そして極めつけは、結局梨沙を見つけられず、夕方になってやっと連絡をもらったこと・・・

 「あのねえ、そりゃ梨沙ちゃん、怒るわよ! あっきれた、生徒総会ではあんな大見得切ってたくせに、ドスケベ!」
「信じられない、自分の彼女が下半身裸で逃げ回ってるのに、AV女優にめろめろになって、いやらしいことまで・・・最低っ!」
「柏原くん・・・私たち、あなたのしょうもない行動、必死にフォローしてあげてたんだけど・・・今度のはちょっと、庇いきれないわね・・・」
しゅんとしている柏原に対し、女子3人は容赦ない言葉で責め立てた。周囲のテーブルの客が好奇の目で見ているのも気にしなかった。

 「ごめん・・・まさか、あのすずちゃんに会えるとは思わなかったから。それに、いきなり目の前で全部服を脱がれちゃったから、つい・・・本当にごめんなさい・・・」
すかさず、私たちに謝ってもしょうがないでしょ、と突っ込まれ、柏原はますます萎縮した。
「でも、俺、梨沙ちゃんのことが本当に好きなんだ。絶対に、離れたくないんだ・・・何とか、うまく説明してもらえないかな。頼む、力を貸してくれ!」

 「よくもまあぬけぬけと・・・」
芳佳が呆れた顔で言った。そして、こっそりゆきなとみどりと目を見合わせ、小さく笑った。ほんと、男ってバカなんだから・・・
「・・・その言葉、本当? 本当に、梨沙ちゃんのこと、ずっと大切にするって約束できる?」

 「もちろん、一生大切にするよ!」
と店内に響きわたる声で言った柏原に対し、3人は慌てた。申し訳ありませんが、もう少し小さな声で、とウエイトレスに注意され、4人は慌てて謝った。

 「もう、やめてよ、柏原くん・・・それにこれじゃあ、私がプロポーズされてるみたいじゃない・・・もう・・・」
芳佳が抑えた声で言った。
「・・・それじゃあ、今回だけは、何とかうまく話してみるから・・・柏原くんは、私たちがいいって言うまで、梨沙ちゃんと接触しないようにして。」


 ・・・柏原を解放した後、3人はファミレスに残って作戦会議を始めた。
「もう、本当に世話がやける2人ねえ・・・でも、何かおもしろい! 絶対にくっつけて幸せにしてあげようね!」
みどりがパフェを食べながらはしゃいで言うと、芳佳とゆきなも苦笑して頷いた。

---------------------☆☆☆--------------------------☆☆☆-----------------------------☆☆☆--------------------

 その日の梨沙は、久しぶりにバスケ部の部活に参加していた。練習を終え、シャワーを浴びて着替えてから携帯端末を見ると、芳佳からのメールが届いていた。そこには、駅前のファミレスで話がしたい、と書いてあった。梨沙はすぐに返事を送ると、急いで駅に向かった。

 ファミレスに着くと、ゆきなとみどりもいることに、一瞬梨沙は驚いた。そして、状況を悟ると、小走りにテーブルに近寄った。
「・・・ごめん。週末はみんなのメールに返事しなくって。ちょっと、いろいろあって疲れちゃって・・・」

 「いいのいいの、そんなことは・・・急に呼び出してごめんね。」
ゆきなが笑いながら言った。
「それより早く座って・・・この新作パフェ、結構おいしいよ。」

 そして梨沙が注文したコーヒーとパフェが運ばれてくると、さりげなく事情聴取が開始された。

 ところどころ言葉に詰まり、ぽつりぽつりと話す梨沙に対し、3人がなだめすかしながら聞き出した内容は以下のようなものだった。
・土曜日の図書館で、3人のアドバイスに従って柏原を試し、パンティを下ろしたところで、柏原とキスをすることになった。
・キスの最中に柏原がスカートのジッパーを下げてしまい、スカートが落ちてしまった。
・そこに外人4人組が現れ、自分は下半身裸で本棚の間を逃げ回ることになった。
・柏原と落ち合う筈のコーナーにも人が来たため、仕方なく別コーナーで待つことにした。
・しかし、柏原はしばらく待っても現れなかった。
・すると、中年男がスカートとパンティを持って、助けに来たと言ったので、出て行ったら、AV女優の大石すずと勘違いされ、連行されてしまった。
・そのままアイリス映像の事務所に連れて行かれ、AVの撮影をされそうになったが、自分は違うことを説明して、帰してもらった。
・駅まで来たところで、柏原くんを呼び、家まで送ってもらった。

 ・・・今度は、3人は何も突っ込まず、梨沙の話を最後まで聞いた。誰も、梨沙の話の欠落した部分や不自然な部分を問いただすことはなかった。
 3人が一番気になったのは、AVと勘違いされた後、どうなったのかだった。撮影中のAV女優に間違えられたのだから、AV撮影をされたと考えるのが自然だ。ましてや、アイリス映像の事務所まで連れて行かれ、ただ話をして納得して帰ったなんて、不自然過ぎた。柏原の話によれば、梨沙が図書館からいなくなって、駅で会うまで、4時間近くの間があった。その間、AV撮影のスタッフ達と話だけをしていたなんて・・・

 また、3人の脳裏にあったのは、まさにその日の午後にあったと噂になっている、渋谷のスクランブル交差点での放尿一回転事件だった。一部では、それを演じたのは大石すずだ、という説が有力になっていた・・・もしそれが梨沙ちゃんだったら、口が裂けても自分からそんなことは言わないだろう・・・

 梨沙がトイレに席を立った時、3人は急いで意識を合わせた。
・とにかく、これ以上聞くのはやめよう
・梨沙の様子に、不自然なところは見られない。もし最悪の事態になっていたら、絶対に動揺が仕草や表情に出ているはず
・柏原くんは、図書館で必死に探していたけど、たまたま梨沙と合うことができず、ずっと本棚の間を探し回っていたことにしよう。
・柏原が大石すずと会ったことを隠しきれるとは考えられないので、梨沙を探している途中で会って、自分の彼女がすずにそっくりで、下半身裸で逃げていたことを伝えたことにしよう。
・また、柏原が熱心なファンであることを知ったすずに、軽く抱きしめられたことにしよう。

 ・・・トイレから戻ってきた梨沙は、3人が意識合わせした話を聞くことになり、柏原が自分のことを必死に探し回っていたと聞いて、ほっとした表情を浮かべた。それから、柏原がすずに梨沙のことを話したからすずが事務所に向かったこと、柏原はすずに軽く抱きしめられただけであること・・・いつしか梨沙の顔には、穏やかな微笑が浮かんでいた。そうか、そうだったんだ・・・


 その日の夜。芳佳は柏原にメールをして、梨沙に話したストーリーを伝え、絶対にこの話を信じさせるように書いた。

 その後、芳佳はゆきなとみどりに連絡を取り、柏原ともストーリーを合わせたことを伝えた。

 そして寝る前に、芳佳は梨沙にメールを送った。もし何か、心配なことがあったら、何でもいいから教えてね。絶対、梨沙ちゃんの味方になるから・・・

---------------------☆☆☆--------------------------☆☆☆-----------------------------☆☆☆--------------------

 翌日。梨沙の柏原への態度が優しくなったことは、瞬く間にニュースとして校内中に広まった。

 そして梨沙と柏原の2人が、学校の図書室を使って放課後の自習を始めると、野次馬が入れ替わり立ち替わり訪れ、2人を見物することになった。時にはからかいの言葉をかける者もいたが、梨沙は超然とそれを無視した。柏原はそうはいかなかったが、もう公営の図書館には行きたくないと梨沙に言われては抵抗できなかった。

 ・・・部活や塾の無い日の放課後は、梨沙と柏原は2人で図書館で勉強することが定例になり、そのあまりにも堂々としたカップルぶりに、生徒達は呆れると共に、暖かく見守るようになった。

---------------------☆☆☆--------------------------☆☆☆-----------------------------☆☆☆--------------------

 それから約1ヶ月後のある日。駅前のファミレスの一番奥のテーブルに陣取った柏原と冬木、木戸の3人は、色めき立って柏原の携帯端末の画面を眺めていた。

 それは、発売前の、大石すずの最新AVだった。メールアドレスの交換をしていた柏原に対し、すずが特別に、未発表作品へのリンクと、そのID、パスワードをメールで送ってくれたのだった。授業中にそのメールの着信に気づいた柏原は、思わず授業中なのにその動画を無音で再生して見入ってしまい、教師の指名を無視してこっぴどく叱られてしまった。

 その姿に何かあるとぴんと来た冬木と木戸が詰めより、柏原はその動画のことを白状してしまった。それなら、その試写会を一緒にしようということになり、3人はファミレスの他人から見えない席をゲットしたのだった。

 しかし、その試写会にはすぐに邪魔が入ることになった。

 「ねえねえ、3人で何してるの?」
突然、女子高生の甲高い声が聞こえ、3人の男子は固まった。
「あー、これって、ひょっとして、AV? ドスケベッ!」
みどりはそう言うと、柏原の携帯端末をさっと取り上げた。

 「あ、みどりちゃん、ちょっと、返してくれよ!」
柏原は慌てて立ち上がった。
「梨沙ちゃんに見つかったらまずいんだから、早く返して・・・あ・・・」

 みどりの後ろには、ゆきな、芳佳、・・・そして、梨沙が立っていた。
「私に何が見つかったらまずいのかな、柏原くん?」
梨沙は笑顔を作っていたが、頬がぴくぴくと痙攣していた。


 ・・・そのメールをゆきなに転送させた後、柏原へのメールは削除されてしまった。とぼとぼと帰る3人を見送ってから、4人はゆきなの家に集合することにした。たまたま、ゆきなの家には誰もいないからだった。そして、4人はきゃあきゃあ言いながら、大石すずの発売前作品の鑑賞会をすることにした。

 『大石すず、露出調教倶楽部 vol.1』・・・それが、AVのタイトルだった。

 動画の再生が始まると、一瞬にして4人はしんと静まり返った。



前章へ 目次へ 次章へ

カウンター