PART 57(bbbb)

 必死に動揺を隠そうとした梨沙だったが、男女のことではゆきなとみどりをごまかせなかった。

 まあ、レイプ物とかSM物じゃなくてよかったじゃん、こんなAV、可愛い方だよ、もっとえげつないの見てる男子も多いんだから、と妙な慰め方をされて、梨沙は少しだけ落ち着いた。

 良かったら見る?、と聞かれ、そのAVのデータを携帯端末にコピーしてもらった梨沙は、その日の夜、恐る恐る、少しだけ見てみることにした。

(柏原くんのお気に入りってことは、私にさせたいってことなのかな・・・)

 そして、それからの4時間、梨沙はじっくりとそのAVを見てしまった。

 いずれのシーンでも、主演の少女は大勢の見ている前で全裸にされ、全身を真っ赤にしながら恥ずかしがり、顔を真っ赤に上気させ、唇を半開きにして喘いでいた。その恥ずかしがり方はとても演技には見えず、梨沙もつい、自分に置き換えて見てしまった。でも、少し、この女優さん、気持ち良さそう・・・

 大石すずというAV女優は動画で見ても確かに可愛かった。それに、どこか控え目な笑い方や知性を感じさせる話し方にも好感が持てた。・・・それなのに、こんなに恥ずかしい仕事をしているなんてどういうこと?・・・

 梨沙にとって意外だったのは、どのシーンも信じられないほど恥ずかしくてエッチだけど、その女優が可愛さと恥じらいを失わないなことだった。AV女優なんて、どこか下品な雰囲気を隠せないのだろうという先入観は見事に覆された。それに、ヌードがとてもきれいだった。背の高さは自分と同じくらいだけど、胸は大きく、ウエストは細く、お尻は丸く膨らんでいた。白くて柔らかそうな肌、可愛い唇、ピンクで小さめの乳首、細い足・・・

 ふと、梨沙は不安に駆られた。柏原くん、いつもこの子の裸を見ているんだよね・・・保健室で私の裸を見た時、どう思ったのかな・・・スタイルは負けてるし・・・乳首はどうかな・・・梨沙は思わず、パジャマを上げて自分の胸を見ようとして、はっとしてやめた。私、何してるんだろう・・・

 さらに、そんなに可愛い大石すずだったが、露出させられる時の恥ずかしがり方がまた真に迫っているように感じられた。顔を引きつらせ、何とか恥ずかしいところを隠そうとしては妨害され、頬を真っ赤に染め、脚をがくがく震わせながら、仕方なく命令をこなしている感じなのだ。そして、絶頂に達する時の、か細く高い、切なそうなあえぎ声、うっとりした表情・・・それは、同性の梨沙から見ても魅力的だった。

 こんなに可愛いすずちゃんに、そんな恥ずかしいことをさせるなんて・・・梨沙は途中から、なぜか大石すずに感情移入するようになっていた。そして、それぞれのシーンがもし自分だったらと思うと、身体の奥がじゅんと反応して熱くなり、恥ずかしい液が出てきてしまった。梨沙自身、似たようなシーンを体験したばかりだから、無理もないことだった。

 すべてを見終わった時、時計は3時を回っていた。梨沙はなぜか、大石すずに完敗したような虚脱感を覚え、布団に入った。あんなに可愛くて、裸も綺麗な子が、あんなに恥ずかしい姿を見せてくれたら、男の子なんていちころなんだろうな・・・私に似てるっていうか、私より可愛い子のAV見て興奮してるなんて、ひどい・・・柏原くんの、ばか・・・

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 翌日の木曜日。梨沙は以前にも増して柏原に冷たく当たるようになっていた。副生徒会長として急いで相談したい件があって柏原は何度も梨沙に声を掛けたのだが、梨沙はことごとく無視した。最後は困り果てた柏原が紀子を経由して、やっと相談できた。

 「ねえ、梨沙ちゃん、どうしてそんなに柏原くんを避けてるの?」
呆れかえった口調で紀子が聞いた。
「柏原くん、結構落ち込んでるみたいだよ。梨沙ちゃにすっかり嫌われたみたいって。」

 「・・・そう。・・・でも、柏原くんなんて、落ち込んでればいいのよ。」
梨沙が素っ気なく言うと、紀子はやれやれといった感じで首を振り、まあ、適当なところで許した方がいいんじゃない、と言って去っていった。


 金曜日も同じような調子だったため、二人の不仲はすっかり学校中の皆が知ることになった。柏原は友人達に、あんだけ嫌われるってことは、お前、何かしただろ、と問い詰められ、必死に否定していた。


 土曜日の帰り。いつもどおり一緒に駅に向かっていた芳佳がふと思いついたように言った。
「ねえ、すっごくおしゃれなカフェができたんだけど、行ってみない?」

 その店は渋谷から少し歩いたところにあった。隠れ家的な雰囲気で、客はまばらだった。ハーブのいい香りがして、ゆったりと落ち着ける雰囲気だった。

 その日のおすすめのランチを堪能した後、やはりお勧めのハーブティを2人は飲んでいた。おいしいし、いい雰囲気だね、また来ようね、などと言い合った後、芳佳がさり気なく言った。
「ねえ梨沙ちゃん、柏原くんと何かあった?」

 「え、べ、別に・・・」
慌てて首を振った梨沙だったが、芳佳がにこやかに見つめているのに気付くと、軽く頭を掻いた。
「芳佳ちゃんに嘘は通じないもんね・・・それじゃあ、ちょっと聞いてくれるかな・・・」

 そして梨沙は、柏原とのことのうち、芳佳が知らないだろうことをできるだけ正直に打ち明けた。
・遊園地から助け出してもらった後、保健室でローターを取ろうとしたのだが自分ではうまくいかず、柏原に手伝ってもらったこと
・柏原は手伝うと称して裸の自分に恥ずかしいポーズを散々させたこと
・さらに、失神しているときに胸を揉み、キスしようとしていたこと
・自分に似ているAV女優、大石すずのAVばかり見ているらしいこと
・一番お気に入りの作品は、裸であちこちで露出させ、卑猥なポーズをさせるものであること

 頷きながら話を聞き終えた芳佳は、梨沙を見てゆっくりと言った。
「梨沙ちゃん・・・それだけで、あんな態度取っていたの?・・・そっか、梨沙ちゃんは一人っ子だもんね・・・うちなんか、兄と弟がいるから、知りたくないことも分かっちゃうんだけど・・・」

 それから芳佳は、男性の心理についていろいろな例を挙げながら説明した。
・男子は、好みの女の子を見たら、絶対に頭の中で裸にして、うんと恥ずかしいポーズを取らせるものらしい。
・また、AVを見るのは当たり前で、兄の趣味を知ったときには軽蔑して、一週間口を聞かなかった。露出だけなんて、本当に可愛い方。
・ただ、女の子にそんな妄想をするからと言って、女性を蔑視しているわけではなく、生理的に仕方ないものらしい。
・好きな子に似たAVを見るのは、その子の裸を想像したいためで、AV女優の方が好きなんて有り得ない。
・目の前に、好きな女の子が裸で寝ていたら・・・少しは触ってしまいたくなるのも仕方ないのかもしれない。

 ・・・芳佳の言葉には経験に基づいた説得力があり、少し梨沙の心は軽くなった。確かに、ゆきなちゃんとみどりちゃんも同じようなことを言ってたし、柏原くんをそんなに怒ったら可哀想なのかな・・・

 別れ際に、気を使ってくれたことにお礼を言った後、ふと梨沙は気になって聞いた。
「そう言えば、芳佳ちゃんて好きな男子はいないの? お礼に私も応援するよ。」

 芳佳はしばらく黙り、小さく溜め息をついてから答えた。
「・・・梨沙ちゃん、やっぱり、恋愛のことは鈍いのねえ・・・ま、ちょっと今はそういう状況じゃないって感じかな。」
芳佳はそう言うと、少し寂しそうに笑った。

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 翌週の月曜日。始業前の教員会議に召集された柏原は、その日一日だけの停学処分となった。許可なしのオートバイ通学は、通常一週間の停学処分なので、かなり寛大な処分と言えた。

 とぼとぼと歩き、校門を出た柏原に、後ろから声がかけられた。
「柏原くん!」

 「え・・・あ、梨沙ちゃん・・・」
柏原は少し驚いた顔をした。
「お、おはよう・・・」

 「処分、どうだった?」

 「ああ、今日一日だけ停学。」

 「そっか・・・それじゃあさ、どっか行く?」

 「・・・え、梨沙ちゃんと? だって、学校は?」

 「私、今日は高熱で休みなの。」

 「・・・え? 大丈夫!?」

 「大丈夫って、見れば分かるでしょ? ぴんぴんしてるわよ。」

 「・・・え?」

 「あのさあ、さっきから、え?、ばっかりね。バカみたいに見えるよ。」
梨沙は呆れた顔になった。
「だから、仮病を使って休んだのよ、鈍いわねえ」

 「・・・で、どうして、仮病を使って休んだわけ?」
始業間際で走っている生徒達のちらりと見る視線が気になりながら、柏原が言った。久しぶりに梨沙から話しかけてくれたのだが、真意がさっぱり分からなかった。

 「・・・だから、どっか行かない?って言ったじゃない?」
黒髪ショートの美貌の美少女はじれったそうに口を尖らせた。
「私のために停学になるのは分かってたから、慰めてあげようと思ったんじゃない。」

 「・・・それって、ひょっとして、今日一日、デートしてくれるってこと?」
柏原の顔がぱっと輝いた。

 「ばーか、調子に乗らないでよ。私とあなた、付き合ってるわけじゃないんだから、デートじゃないに決まってるでしょ!」
シュンとした柏原の顔を見て、梨沙は声を落とした。
「・・・今日一日だけ、付き合ってあげるって言ってるのよ。・・・私のために、校則を破ってまで助けてくれたから・・・まあ、その点は感謝してるし」

 「あれ、梨沙ちゃんと柏原くん、おっはよう!」
ふいに少女の高い声が2人にかけられた。
「どうしたの、朝っぱらから校門の前で堂々と? また痴話ゲンカ?」
ゆきなはそう言うと、小走りに駆け抜けて行った。
「早くしないと、遅刻しちゃうよ!」

 ゆきなの大声に、ちらちらと見ていた周囲の生徒が、一斉に2人を見つめた。

 「・・・もう! 柏原くんがぐずぐずしてるから、また変な噂が広まっちゃうじゃない!」
梨沙はそう言うと、柏原の袖を引っ張った。
「ほら、早く行くよ!」

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