◆◆◆以下、おまけパート◆◆◆

PART 65(bbbb)

 「それで、どこ行く?」
校門を出てしばらく歩いてから、柏原が言った。
「映画でも行こうか?」

「また映画ぁ? ほんっとに、古くさいっていうか、頭堅いんだね、柏原くん。・・・ていうか、謹慎しろって言われたばっかりじゃない!」

 「ごめん・・・」
さっきまでにこにこしてたのに、本当、分かんねえなあ・・・柏原は混乱した。だいたい昨日だって、停学の俺に対して遊びに行こうって誘ったのは梨沙ちゃんだったくせに、急にいい子になるなんて・・・でも、こういう時は余計なことは言わないで、嵐が過ぎるのを待った方がいいんだよな・・・

 「柏原くん?」

 「う、うん。」

 「今、私のこと、めんどくさいって思ったでしょ?」

 「うん・・・あっ、いや、思ってないよ、」

 「柏原くん、左肘、曲がってるよ」 

 「あ、あっと、ごめん・・・でも、面倒くさいじゃなくって、難しいなって思っただけだよ。」

 「ま、いいんだけどね。柏原くん、こういうところは単純なのがいいところだし。」

 「・・・」
(で、何を言いたいんだ?)

 「図書館」

 「・・・え?」

 「中央図書館に行きます」

 「何で?」

 「勉強するために決まってるじゃない!」

 「あの、だけど、試験勉強の時期でもないし・・・」

 「T大に行くの」 

 「・・・え?」

 「もう、え、ばっかりじゃない!」
梨沙は焦れったそうに言った。
「いい? 私と柏原君は、K大じゃなくて、T大に行くの!」

 「T大か・・・」
柏原は唸った。今の自分の成績では、希望学部に現役で入れるかどうか・・・

 「柏原くん、前、言ってたわよね。本当はT大の方が、自分がやりたい勉強ができるって。」

 「・・・うん・・・」

 「私もそうなの。T大の文学部に進みたいの。」

 「そりゃ、梨沙ちゃんなら余裕だろうけど、俺はちょっと・・・」

 「・・・それにね、さっきね、みんなの私を見る目がね、すっごく優しかったの・・・」

 「・・・え?・・・」

 「・・・分かったわ。遠回しに言っても柏原くんには通じないよね。・・・だから、生徒総会のこと、覚えているからみんな、優しいんじゃない・・・きっと、これからもずっと・・・私、そんなの、いやなの・・・」
梨沙は急に声の力がなくなり、ぽつりぽつりと話した。
「でも、柏原くんは一緒にいて欲しいの・・・駄目かな・・・」

 「分かった! 梨沙ちゃん、俺、絶対にT大に入るよ!」
急に心細そうな目で見上げた梨沙を見て、柏原はじーんと感動した。絶対に、梨沙ちゃんを守るからね、何があっても、一生・・・
「でも、梨沙ちゃん、付きっきりで教えてくれよ。」

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 その二時間後。柏原はさっきの発言を早くも後悔していた。梨沙の教え方が半端なく厳しいのだ。
「えー、ちょっとお、そんな熟語も知らないのお?・・・まったく・・・この熟語集、覚えてきて、明日まで。」

 「明日までって、そんな無茶な・・・え、明日も図書館?」

 「当たり前でしょ。明日も、じゃなくて、4日間連続だからね。あなたの出来次第では土日もやるから6日間連続やるわよ。」
隣に座っている梨沙は顔を近付けて睨みつけた。
「・・・柏原君、もっとちゃんとしていると思ったのに、英語も地理も基礎が全然できてないじゃない。化学だって、記憶がいるところは怪しいみたいだし・・・今まで、数学で稼いでたから校内模試ではかっこうついてたみたいだけど、T大はそんなに甘くないわよ。」

 「・・・分かった、分かったからさ、ちょっと休憩しない? だいぶ根詰めて疲れたし。」

 「はああ? まだ図書館に来てから90分じゃない。T大入試は1科目150分なのよ! 甘えるんじゃないわよ、基礎もできてない癖に!」


 ・・・図書館の閉館までみっちり勉強した二人は、夕食を近くのファミレスで採ることにした。

 そして、ころっと上機嫌になった梨沙は、これって案外おいしいね、とにこにこして食べていた。

 (・・・ふう・・・すっごく可愛いし、大好きなんだけど・・・女の子と付き合うって、こんなに疲れるのかな・・・)学校にいるときよりも遙かに密度の高い勉強をさせられた柏原は、ぼうっと梨沙の笑顔を眺めていた。それにしても、よく食べるなあ・・・

 「・・・どう、柏原くん?」

 「・・・え?」

 「ちょっと、聞いてなかったの?」
梨沙は頬を膨らませた。
「だから、・・・柏原くん、本当に忘れてくれた? あの日のこと・・・」

 「・・・え・・・あ、ああ!」
柏原は、梨沙の不安そうな顔を見てやっと何の話か分かった。
「うん、もちろん、忘れたよ!」
よし、左肘も伸びてる・・・

 「ふーん、そっか・・・」
柏原の鼻の穴が膨らんだのを見た梨沙は、曖昧に頷いた。まあ、忘れろって言ってすぐ忘れられるものじゃないよね・・・
「私、昨日、海でさ、柏原くんが希望した水着、着てあげたよね・・・」

 「う、うん・・・」
柏原の心臓の鼓動が一気に早くなった。そう言えばあの水着、梨沙ちゃんが持って帰ったんだ。もし、あれで友達か誰かと海にいったらどうしよう!

 「・・・あのさ、昨日はさ・・・」
梨沙が突然話しにくそうになった。顔が真っ赤になっている。

 「うん、昨日が?・・・」
どきどきどき・・・柏原は心臓の音が梨沙に聞こえないか気になった。梨沙ちゃん、異常に察しがいいんだよなあ。

 「昨日ね、あれから家に帰ってさ・・・」

 「う、うん・・・?」

 「あのね、大石すずの、ビデオ、見た?」

 「・・・! いや、見てないよ! 見ようとも思わなかったよ!」

 「本当? 本当に?」
梨沙の顔がぱっと明るくなった。
「私の水着見たから?」

 「うん、そうだよ!」
柏原は力強く言って頷いた。本当は、梨沙の水着姿を見たからというよりは、梨沙の透けた水着の全裸姿を見たから、大石すずの裸で上書きしてしまわないようにと思って見なかったのだが、嘘ではなかった。
「梨沙ちゃんのあの水着、本当に可愛かったよ。」

 「そっか、良かった。」
梨沙は両手を重ねて胸に当て、ほっとしたように微笑んだ。左の肘も曲がってないし、鼻も膨らんでないし、瞬きも増えてない・・・
「・・・私ね、男の子のそういうこと、全然分からなくって・・・すずちゃんにね、全然勝てないのかも、って思ったから・・・嬉しい(笑)」

 なんて可愛いんだっ・・・柏原はまた、じーんと感動した。
「大丈夫、もう絶対、すずちゃんは見ないから!」
柏原はまた調子に乗って、無謀な約束をしてしまった。

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