PART 79

 バタン、と扉が閉じられ、会議室に静寂が訪れた。窓の外からは車の騒音、会議室の扉の向こうからは社員達の話し声や笑い声が小さく聞こえてくる。
(あ、ああ・・・いやあ・・・)
有希は生きた心地がしなかった。両手は後ろ手に拘束されているため、縄を解くことはできなかった。唯一、有希にできるのは、Supershot担当の社員達が戻ってくるまで、誰も入って来ないように祈ることだけだった。

 12時1分、12時2分・・・壁に掛かっている時計を横目で見ながら、有希は気が遠くなった。普段であれば昼休みの1時間などあっという間だったが、今は1分1秒があまりにも長く感じられた。会議室の外から聞こえる声が少しずつ減っているのがせめてもの救いだった。
(お願い、早く戻ってきて・・・)
今、誰かが入ってきたら、縄一本が食い込んだだけの下半身をいきなり眼前に突きつけることになる。その時に、一体なんと説明したらいいのか・・・恥ずかしい二つの穴は、縄の瘤で辛うじて隠れているだけなのだ・・・
 男性社員達は意地悪く、二つのものを置いていった。一つはアイリスに中継するための携帯端末、もう一つはシェービングクリームとカミソリだった。それはつまり、もし誰かに変なことを言ったら報復されるぞ、という監視であり、また、入ってきた人間に、それで毛を剃るように自ら依頼しろ、という命令だった。

 そして有希はさらにもう一つ、悩ましい問題を抱えていた。さっきから徐々に、下半身がじんじんと熱くなってきていたのだが、それがもはや耐え難いレベルになってきていたのだ。まさかそんな筈はない、と自分をごまかしていたのだが、今では認めざるを得なかった。わ、私、感じてしまっている・・・会社で縛られて、こんな恥ずかしい格好をさせられて・・・う、嘘っ! でも、どうして、こんなに、気持ちいいの?・・・
「・・・あ、あはぁ・・・」
有希は思わず唇を開き、熱い息を吐いてしまった。

 −−−実はそれには理由があった。週刊X担当から借りてきたそのロープには、催淫剤が染み込ませてあったのだ。それは有希がF町とアイリスで責められたものと同じ成分であり、体温で溶け、毛細管現象で徐々に染み出るようになっていた。有希を長時間拘束している縄から染み出た催淫剤が、クリトリスと秘裂、尻の穴に溶け出し、快感をもたらしていたのだった。−−−

 思わず喘ぎ声を出してしまった有希は、はっとして唇をぎゅっと閉じた。しかし、一度外れてしまった理性の箍を戻すことは困難だった。有希は意識しないように努力したが、それは却って下半身に意識を集中させることになってしまった。その結果、快感の波が強弱をつけながら徐々に大きくなっていた。

 12時3分。一人だけの会議室でテーブルの上に拘束されている有希は、熱い息を吐き、カタカタと小さく震えるようになっていた。脚を広げ、瘤を強く押しつける姿勢を続けたため、催淫剤がどんどん身体に染みていることが主な理由だったが、有希にはもちろんそんなことは想像の外だった。
(どうして私、こんな格好をしているのに・・・感じてしまっているの? も、もう、駄目、これ以上気持ち良くなったら・・・)
しかし、下半身がさらに熱くなり、掻痒感のような、快感のような不思議な感覚はついに有希の限界を超えようとしていた。

 「・・・あ、あ、あぁぁ・・・はぁぁ・・・は、はぅぅっ!」
ついに有希は、ゆっくりと腰を上下に振り始めた。すると、3つの瘤が女性の敏感な部分をより強く刺激し、有希は思わず悲鳴を上げ、背中をさらに仰け反らせた。き、気持ち、いい・・・
(あ、だ、だめっ! 私、何をしているの!?)
ふと理性が蘇った有希は、慌てて首を後ろに曲げ、入り口の扉の方を見た。幸いそこには誰もおらず、さっきまでと何の変わりもなかった。もし、誰かに見られていたら・・・

 『あら、どうしたの、有希ちゃん? 素敵なオナニーショーだったのに』
いきなり真樹の声が響き、有希は心臓が止まりそうになった。
『上下もいいけど、左右に振ったり、円を描くように回すと、もっと食い込んで気持ちいいかもよ?』

 「な、何言っているんですか・・・」
有希は即座に言ったが、その言葉には力が無かった。そうだ、携帯端末は、私の姿を中継し続けているんだ・・・有希は唇を強く噛み、もう絶対にあんなことはしないと誓った。

 12時5分。有希の誓いは早くも風前の灯火となっていた。さっき、自ら腰を振ったせいで、縄に染み込んだ催淫剤が身体の奥までじっくりと塗り込まれてしまったのだ。
(あ、駄目、だ、だめぇ・・・)
しかし今度は、有希の理性では抑えることができず、宙に突き出された尻がゆっくりと揺れ始めた。最初は上下に、しばらくすると、今度は左右に、そして、円を描くように・・・まるでもっと感じるポイントを探し求めているかのように、有希の尻はクネクネと淫らに揺れ続けた。
「・・・あ、あ、あぁん・・・あ、あぁ・・・うぅぅん・・・は、はぁ、はぁ、はぁぁ・・・」
いけないと思いつつ、有希は腰の動きを止めることができなかった。ど、どうして、こんなに、気持ちいいの・・・

 『ふふ、素直になったわね、有希ちゃん。やっぱりあなた、露出狂の変態なのよ。』
携帯端末からまた真樹の声が聞こえた。
『だけど、よくやるわねえ・・・そこ、あなたの会社の会議室なんでしょ? AV女優だって断るわよ、そんなの(笑)』

 「・・・そ、そんな・・・あ、あん・・・あはぁ・・・はぁ、はぁ、はっ、あぁ・・・」
今度は有希は、言い返すことも、恥ずかしい腰の動きを止めることもできなかった。もっと激しく動かしたいのを必死に堪える・・・それだけが、有希の最後の抵抗だった。このままでは、私、会社で絶頂に達してしまう・・・
そ、それだけは嫌っ!

 しかしそれは、徐々に官能を高め、なかなか絶頂に達しない状況を続けるということでもあった。もっと感じたい、いっそのことイってしまいたい、という断続的な衝動に耐えながら、有希はゆっくりと腰を振り、唇を半開きにして熱い息を吐き、抑えきれない喘ぎ声を漏らし続けていた。
「・・・あ、あ、あんっ・・・い、いや・・・あ、ぁぁ・・・は、は、はぁぁ・・・うぅん・・・」

 「ほんと、よくやるわねえ・・・あなた、会社を何だと思ってるの?」

 またもや嘲り声が聞こえたが、有希はもはや何も言えなかった。あ、あん、いぃ・・・と声を漏らし、目を固くつぶって快感を堪えていた。AV会社に中継されて嘲られながら、恥ずかしいことをやめられないなんて、私・・・もう・・・

 「信じられない、変態じゃないの?・・・まあ、いいわ・・・好きなだけ楽しんでちょうだい」

 嘲りの声が更に浴びせられ、有希は更に恥辱にまみれた。しかしその嘲りが、有希の理性の崩壊に力を貸した。そ、そうよ、私、変態・・・かも・・・有希は思わず、腰を振る動きをさらに早めてしまった。
「・・・あ、あん、あぅぅ・・・あ、あんっ・・・あ、い、いい、いいっ・・・」
縄が食い込み、瘤がクリトリス、膣口、尻の穴を刺激する・・・も、もっと、もっと、気持ちよく・・・有希はうっとりと目を閉じ、唇を半開きにして淫らな動きを続けた。

 しかしその時、全く予想外の事態が起こった。カラカラカラ、という音が前から聞こえ、目をつぶった瞼の向こうから強い光を感じた。全身に熱を感じる・・・
(え、どうして・・・?)有希はうっすらと目を開けた。

 「・・・い、い、いやあっ!・・・」
目の前では、ブラインドがすっかり上げられ、全面ガラスとなっている窓から射し込んだ陽光が有希の上半身に当たっていた。眼下には大通りを走る車と歩行者が見え、正面にはS書房のビル・・・向かいは自分の職場の第1編集担当だ・・・
「い、いや、いや、どうして・・・あっ!」
振り向いて会議室の中を見ると、そこには派遣社員の4人の女性が呆れた目で自分を見下ろしているのが分かった。
「・・・ちっ、違うんです、こ、これは・・・お、お願い、ブラインドを、下ろしてください・・・た、助けてください・・・」
有希は半ばパニック状態になり、自分でも何を言っているのかよく分からなかった。(見られた! 淫らに腰を振って、自分で快感を味わっている姿を・・・い、いやあ・・・)

 しかし、美人で評判だった新入社員の浅ましい姿を目の当たりにして、4人の派遣社員は小さな笑みを浮かべていた。
「有希ちゃん、何が違うの? 今あなた、絶対に自分から腰振って気持ちよくなってたわよね・・・私たちが声を掛けたのに無視しちゃって・・・」
「あのねえ、お尻丸出しにして縄だけでって・・・ほんとに好きなのねえ、こういうの。朝、ビデオの件で同情して損したわ。今あなた、あのビデオと同じ・・・ううん、もっと激しく腰振って、縄で感じようとしてたわよね?」
「・・・そんなに腰突き上げちゃって、恥ずかしくないの?・・・あれ、あなた、あそこの毛は・・・?」
「・・・きゃ、やだっ!・・・これで剃ったんでしょ?」
「え、どれどれ・・・やだ、本当だ・・・あなた、会社で下の毛を剃ってるの?(笑)」
「やだあ・・・縄が食い込んで、ほとんど全部、丸見えじゃない!」
「しかも、この瘤!・・・本当にドスケベねえ、この子(笑)」
「だけど、誰に縛ってもらったの、机の上に?」
「そうよ、助けてって言うんなら、どうしてこうなったのか、説明してよ。」
質問に答えることを促すように、4人の言葉なぶりが止まった。

 「え、そ、それは・・・あの・・・あ、あはぁ・・・は、は、はぁ・・・」
ぎりぎりまで高められてしまった快感の波がなかなか引かず、有希は思わず喘いでしまった。
「す、すみません・・・あの、その・・・あっ、あんっ・・・お、お願いです、その前に・・・あはぁん・・・お願いです、ブラインドを下げて、ください・・・」
向かいのビルの窓際に社員の姿が見えて、有希は慌てて言った。

 「嫌よ、私達いつも、ここでブラインド全開にしてランチするのが楽しみなんだから。大丈夫よ、向かいのビルからはこっちの中はよく見えないはずよ。」
派遣社員の一人はそう言ってあっさり有希の懇願を却下した。
「それより早く説明してくれる? お尻もアソコも丸出しで縄オナニーしてた理由?(笑) 私達、ランチ食べながら聞いてあげるから。」
その言葉をきっかけに、4人の女性派遣社員は、手作りの弁当や買ってきたパン、おにぎり、サラダなどを広げ、いつもどおり楽しくランチを開始したのだった。

 「そ、そ、それは・・・」
4人の派遣社員達の視線が意地悪く股間に注がれているのを感じながら、有希は必死に言葉を探した。しかし、真樹がこの中継を見ていると思うと、アイリスのことを悪くは言えない。でもそれでは、秘部の毛を剃っていることをどう説明すれば良いのか・・・それに、自ら腰を振って快感を貪っていたのは誰のせいにもできない・・・
(・・・くぅぅ・・・)突然快感の大波が来て、有希は必死に唇を噛んだ。だ、駄目、感じちゃ・・・

 「いいのよ、答えたくないんなら。私達、あなたのきれいなお尻を見ながらランチするだけだから(笑)」
「たまにはこんな景色もいいかもね。これが噂のエロ尻かあ(笑)」
「・・・ねえ、そのフルーツサンド、ちょっと食べてみてもいい?」
「いいよ。それじゃあサラダ少しもらってもいい?」
4人の派遣社員は、四つん這いで突き出された有希の裸の下半身をオブジェ扱いして、いつもどおりのランチを始めた。屈辱のためか、快感のためか、その大きな丸いお尻がプルプルと震えているのが愉快だった。


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