PART 69(bbbb)

 「梨沙ちゃん・・・」
膝に絡んだパンティがいやらしかった。スカートの下は下半身丸裸なのに・・・
「そ、それじゃあ、スカートのホックを外して・・・」

 「うん・・・これでいい?」

 「うん、それじゃあ、今度は、ジッパーを下ろして・・・」

 「うん・・・下ろしたよ・・・」

 「それじゃあ、スカートから手を放して・・・」

 「いや」

 「・・・え?」

 「え、じゃないわよ! 柏原くん、ここで私に下半身裸になれっていうわけ? ジッパーだって、半分しか下ろしてないわよ」

 「え、だって・・・」

 「その友達が言ったの。ビデオと同じことする?って聞いてみなって。柏原くん、絶対に私に裸になれって言うって。」
梨沙がつっけんどんな口調で言った。
「私はね、いくら柏原くんでも、まさか図書館の中で、私に変態みたいなことさせるはずないって、一生懸命言ったんだけど。」

 「・・・」
(くそ、やっぱり罠だったか・・・)

 「でもそれも、柏原くんが、私のことを・・・心も、身体も、全部が好きな証拠なんだって・・・その友達から見て、柏原くんなら、ちょっとエッチだけど、絶対に信用できるって・・・」
梨沙は小さく首を振った。
「ちょっと、よく分からないよ・・・本当かなあ・・・」

 「もちろん、本当だよ、俺、梨沙ちゃんだけだよ!」
柏原は、至近距離で小首を傾げる梨沙に感じた愛おしさを我慢できず、突然抱きしめた。

 「ちょ、ちょっと、柏原くん!」
梨沙は身体をよじって抵抗したが、その力は弱かった。初めて男性にぎゅっと抱きしめられ、梨沙は頭がぼうっとなった。柏原くんの身体、あったかい・・・やっぱり、大好き、柏原くん・・・

 梨沙は、近付いてくる柏原の顔を、今度はひっぱたかなかった。その代わり、軽く目を閉じ、柏原が来るのを待った。柏原の唇が、ついに梨沙の唇に触れた。1秒、2秒、3秒・・・梨沙には1秒ずつが無限にも感じられた。私、柏原くんと、ファーストキス、してるんだ・・・

 柏原くん、ずっと一緒にいてね・・・もっと、近付きたい・・・梨沙は両手を伸ばして柏原の首に回し、背伸びしてぎゅっと抱きついた。

身体がふっと軽くなった気がした。全ての束縛が解かれ、心も体もすうっと軽く、自由になっていた。柏原くんといれば、それだけでいい・・・


 「・・・!」
(足音だ! 沢山の人!)梨沙ははっと目を開けた。柏原の首に巻き付けていた両腕を離し、一歩後ろに下がった。
不審気な顔で口を開こうとした柏原に、梨沙は唇に人差し指を当てて見せた。しゃべっちゃだめ!

 (・・・あ)
そして柏原も気付いた。複数の人間の足音・・・英語で話し合って笑っている・・・スパニッシュ、とか言ったぞ・・・スペイン文学の研究者達がこっちに来る!?

 しかし、柏原が言いたいことはもう一つあった。梨沙のスカートがいつの間にか、床に落ちてしまっているのだ。膝に絡まっていたパンティも引きずられて落ちたようで、両方の足首に絡まっていた。ちょっといたずらして、ジッパーを少し下ろしたら・・・ごめん、梨沙ちゃん・・・上半身はかっちりした制服姿、下半身は丸裸で淡い恥毛丸出し、その間の秘裂も見えている・・・それは、ビデオの一シーンのすずと同じ格好だった。

 「・・・え?」
柏原の視線に気付いた梨沙は、自分のスカートを見た。・・・スカートは、床に落ちていた・・・裸の下半身・・・え、え?

 その一瞬の動揺が致命傷になった。英語で話し合う男女の声はすぐそこまで近付いていた。もう、10メートル位先まで・・・ここに来るまであと数秒しかない・・・

 柏原はとっさの判断で、梨沙の両足首の間のパンティを自分の足で踏んだ。
「梨沙ちゃん、逃げて! 着てる時間はないよ!」

 「・・・えっ、そんな」
下半身裸で逃げろなんて、無理よ・・・しかし、もう時間が無いのも事実だった。

 「もっと奥の棚なら大丈夫、南米とかの文学だから! すぐに服、持ってくから!」

 「う、うん・・・」
梨沙は覚悟を決めると、だっと駆け出した。とにかく、奥の棚に・・・南米の棚のところに入れば、柏原くんが助けに来てくれる・・・

 梨沙がスペイン文学の棚からいなくなったのと、外人の男女4人組がそこ来たのは、ほぼ同時だった。4人は、柏原がそこにいるのを見ると、意外そうな表情を浮かべた。

 「Hello!」

 「Hello!」

 「What's that?」
背の高い男性が、柏原のが手に持っている、丸めたスカートを指差した。

 「ah...nothing...bye!」
柏原は曖昧な笑顔を浮かべて首を振り、その場から離れようとした。

 「Hey,Wait!」
一番長身の男性が手を伸ばし、柏原の腕をぎゅっと握った。その弾みで、丸まっていたスカートが少し開き、中に包んでいたパンティの白い布が見えた。
「...What's that?」


 ・・・一方、梨沙は人がいないのを確認しながら、図書館のさらに奥の棚へと移動していた。遠くに人の姿が見えても、進まなければいけない時もあり、その度に梨沙は心臓が停まりそうな気がした。

 南米文学の棚は、図書館のほとんど一番奥だった。
棚の間に身を隠し、梨沙はしゃがみこんだ。下半身が裸で、秘部が外気に晒されるのが辛かった。柏原くん・・・早く来て、お願い・・・

 しかし、柏原はなかなか現れなかった。さっきの棚からは、歩いて15秒もかからないはず・・・

 梨沙が南米文学の本棚の間に身を潜めてから一分ほどが経過した。おかしい、どうしたの、柏原くん・・・梨沙は携帯端末を席に置いてきたことを後悔した。

 その時、複数の足音が近づいて来るのが聞こえた。さっきと同じように、英語の会話も聞こえた。
(・・・!)
南米って、スペイン語圏じゃない!・・・梨沙は柏原の地理の知識不足と自分の迂闊さを恨めしく思った。

 顔だけを出してそっと通路を見ると、さっきの外国人達の姿が見えたが、男性が一人減り、三人になっていた。

 どうしよう、ここで待っている約束なのに・・・しかし、迷っている時間はなかった。梨沙は、外国人三人組が歩いてくるのと反対側の通路に顔を覗かせた。遠くの方に、数人が行き来しているのが見えるが、こっちを見ることはないだろう・・・梨沙は、股間を右手で、お尻を左手で庇うと、そっと通路に出て、移動を開始した。

 本棚を一つ通過する度に、左右に人がいないかを確認し、前方にも人がいないことを確認して進む・・・それは、一瞬も気を抜けない作業の連続であり、梨沙は破滅の予感に、がくがく脚を震わせていた。

 国文学・・・この棚なら、誰も来ないわよね・・・梨沙はしばらく、ここに身を潜めることに決めた。まだ、下半身裸で逃げ始めて五分しか経っていなかったが、16歳の女子高生にとってはあまりに長い時間だった。どこにいるの、柏原くん・・・


 梨沙の予想どおり、国文学の本棚には数分経っても誰も来なかった。それにしても、どうして、スカートが落ちたんだろう・・・

 (あ、あの時だ・・・)梨沙は思い当たった。柏原くんにキスされて、首に腕を巻いて、思いっきり背伸びした時、急に束縛を解かれて、身体が軽くなった気がしたけど・・・あの時、スカートが落ちたんだ。私、嬉しくて勘違いしちゃって、馬鹿みたい・・・

 だけど、ジッパーは半分しか下げていなかったのに、どうして全部下がってたんだろう・・・
(あ! 柏原くん!・・・)キスをしていた時、柏原の右腕が一回離れて、腰のところを触ったのを思い出した。あの時、ジッパーを下げたんだ、たぶん、ちょっとしたいたずらのつもりだったんだろうけど・・・バカッ!

 「おーい、助けに来たよー」
不意に男性の声が聞こえ、梨沙はぎょっとした。それは柏原ではなく、中年男性の声だった。
「ほら、スカートとパンティも持ってきたよ。」
その男は、本棚の間を一つ一つ確認して、徐々に近付いてきた。こっそり見ると、男の手には確かに、K附の制服のスカートと白いパンティが握られていた。

 どうしよう・・・男に助けを求めるべきか、やり過ごして柏原を待つべきか・・・梨沙はしばらく迷った。男が柏原の依頼ではない可能性と、柏原が何らかの事情で来れない可能性、どっちの方が大きいか・・・

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